1月12日(日)、「やなぎみわ展 神話機械」関連ワークショップとして「機械と朗読」が開催されました。ワークショップでは、アートと機械の融合した出品作品《神話機械》のマシンたちの運動に合わせて、参加者が自らの声で朗読を行いました。《神話機械》は、音響と照明で自律的に演劇を行う、マシンの作品です。4台のマシン作品の動きに合わせて、シェイクスピア「ハムレット」の1シーンなどの台本を朗読し、マシンと人が協力して演劇を生み出す新たな試みに挑戦しました。
本ワークショップは、やなぎみわさんご本人によるご指導の下行われました。この大変貴重な機会に、遠方からお越しになった参加者の方もいらっしゃいました。
先ずは当館実技室にて、やなぎみわさんや「やなぎみわ展 神話機械」を担当された当館学芸員の植松さんより、ワークショップの説明や講師紹介が行われました。朗読の為の台本となる資料なども参加者へ配布されました。
展覧会の会期中は、1日3回マシンによる無人公演が行われました。この日も11時から第1回目の無人公演が行われ、参加者もマシンたちによる約15分間の演劇を鑑賞しました。ワークショップ当日に無人公演を初めてご覧になった方が大半で、午後の朗読本番への緊張感を高めながら鑑賞されているようでした。
「神話機械 Myth Machines」には、4台のマシンが登場します。それぞれギリシア神話に登場する女神の名前が付けられており、音響や照明を司るメインマシンには、「タレイア」の名が付けられています。≪タレイア(メインマシン)≫はプログラミングにより自律的に舞台上を動き回ることが出来ます。本来はこのメインマシンが言葉や音楽を発しますが、朗読の本番時には≪タレイア(メインマシン)≫は動作と照明のみで音は一切発さないようにし、代わりに参加者が声を当てる事で演劇を完成させます。その他、音などに反応して振動する≪テルプシコラー(振動マシン)≫、人の手脚の形をした≪メルポメネー(のたうちマシン)≫、頭蓋骨を壁に投げ付ける≪ムネーメー(投擲マシン)≫などが共演します。
11時からの無人公演を鑑賞後、実技室に戻り朗読の練習がスタートしました。先ずは、配布された「ハムレット」の1シーンなどが書かれた台本を元に、自分の演じる内容を決めます。今回は用意された台本をそのまま朗読するのではなく、数あるセリフや資料の中から自分で言葉を選び抜き、組み合わせる事でオリジナルの台本を作るところから始まります。
朗読は2人1組のチームになって行います。チームごとに30秒~2分程度の時間が割り当てられ、その時間内に収まるようにセリフを決めます。この日初めて会う方同士でチームとなったグループがほとんどでしたが、台本作りが始まると早速お互いに相談し合いながら、台本の資料に熱心に目を通していました。チームごと読み上げる内容を決めたところで、今度はチーム同士のバランスを調整します。やなぎみわさんのアドバイスや指示により、セリフの内容が重複していたチームの台本を変えたり、読み手を入れ替えてみたりと、細かな試行錯誤が続きました。午前中のうちに読み上げる内容が少しずつ決まり、一度お昼休憩となりました。
午後14時からは、この日2回目の無人公演が行われました。参加者は自分のセリフが書かれた台本を片手に、マシンの動くタイミングと朗読を合わせるタイミングを、静かに確かめていました。今回は≪タレイア(メインマシン)≫が照射を行っている間の時間が朗読時間となります。約15分間の公演の中で≪タレイア(メインマシン)≫が照射を行うタイミングは複数回あり、それぞれ照射時間も異なります。参加者は自分に割り当てられた部分の照射のタイミングがどこなのかを慎重にチェックしていました。
朗読の練習もそろそろ終盤に差し掛かってきました。ストップウォッチなども利用しながら、読み上げる速さにも気を配ります。やなぎみわさんにより、声の大きさや調子など、演劇に関する専門的なレクチャーも時折挟みながら進められました。何度か全員での通し練習も行われ、セリフの調整などを繰り返しているうちに、あっという間に本番の時間が近づいてきました。
16時からの3回目の無人公演後、特別公演としていよいよ「機械と朗読」の本番が行われました。本番ではマイクを使って朗読をしていただきました。これまでの公演ではあったはずの音響は消され、緊張感漂う静けさの中、参加者の方の目一杯の声がマシンに合わせて響き渡りました。練習時間も短かった中ほとんど一発勝負での朗読本番となりましたが、全員の方が協力して息を合わせ、見事にそれぞれの役を演じ切っていました。最後は、台本に登場する歌をセリフとして選んだ方による、コミカルな曲調の歌で特別公演は幕を下ろしました。シリアスなセリフだけで作るのではなく滑稽さも織り交ぜるなど、やなぎみわさんのアドバイスと参加者の方のアイデアが組み合わさった、大変抽象的で遊び心のある演劇が完成しました。
たった一度きりの正に「特別な公演」となりましたが、今回のワークショップを通じて、やなぎみわさんの作品の世界に深く浸ることが出来たのではないでしょうか。特に演劇や美術を学んでいる方にとっては、滅多にない貴重な機会だったのではないかと思います。「機械と朗読」を見事に演じてくださった参加者の皆様、本当にありがとうございました。