2019年12月23日(月) 作れちゃう
11月4日に「めぐるりアート静岡」関連企画として、わくわくアトリエ「型取りの方法で 粘土の石をつくって、堀さんの作品に参加しよう。」が行われました。「めぐるりアート静岡」は、静岡に所縁のある作家を招聘し「今を生きるアート」を紹介する展覧会です。7回目を迎えた今年は、静岡県立美術館、静岡市美術館、中勘助文学記念館、東静岡アート&スポーツヒロバ、小梳神社の各会場で、彫刻、絵画、インスタレーション、パフォーミングアーツ、野点といった多彩な表現を通して現代美術作品が展示されました。(会期は11/10に終了しました)
このプログラムでは、当館の展示を担当した美術家の堀園実さんを講師に招き、作品参加型のワークショップを実施しました。堀さんの作品を「見る」、アーティストトークを「聞く」、作品を構成する要素である「ねんどの石」を作家と同じ方法で「作る」、さらにその「ねんどの石」を堀さんの作品の中に置くという一連の行為を通して、ひとつの作品について深く考えをめぐらせていただくことが今回のワークショップの狙いでした。小学1年生~6年生、大学生、大人など、年齢層も幅広く、午前午後とも20名以上のご参加がありました。
はじめに「見る」ことからスタート。堀さんの作品を参加者の皆さんのペースに任せて自由に鑑賞していただきました。様々な年齢層の方が集まったことから、現代美術作品を目にすること自体が初めての方もいると想定し、鑑賞に入る前に作品について感想を書き留められるシートを渡しました。「作品を見てどんなことを感じましたか?面白いところ、疑問に思ったところを教えてください」など、どの世代の方にも答えられそうな問いかけを用意し、漢字にはルビをふりました。シートの記入については任意でしたが、堀さんの作品を前に、皆さん色々なことを感じ取ったようで、一生懸命に書き留めている様子が印象的でした。「小石がいっぱい。色んなかたちがおもしろい」といった子どもの素直な感想から「虚無や死を感じる」という感受性豊かな大人の方の感想まで、作品の第一印象は本当に様々でした。そして、作品を鑑賞しただけでは分からない、どうして?なぜ?そのような表現にいたったのか、という点について多くの方が疑問を持たれたようでした。
次に作家や作品にまつわる話を「聞く」時間を設けました。床に座って作品を囲み、堀さんと当館の現代美術を担当する川谷学芸員との対談形式のアーティストトークが行われました。目線が低くなるとぐっと作品に近づいたように感じられました。《なみうちぎわの協和音》は、堀さんが清水の海岸で拾ってきた石や漂流物から型を取って、美術館のエントランスに再構成された作品です。堀さんがどういった過程を経てこの表現方法にたどり着いたのか、美大生の時に感じていたことやフランスでの滞在制作を通して経験したこと、地元静岡に帰ってきてからの気持ちの変化といったお話を伺っていくうちに、作品が堀さんの「今」と地続きにあることが感じられ、皆さんのコメントからも共感や驚き、親近感へと変化していった様子が見られました。
つづいて実技室に戻り「作る」体験をしていただきました。堀さんが清水の海岸の石から作った石膏型を使って、皆さんにも「ねんどの石」を作っていただきました。上の写真に写っているのはごく一部で、合わせがばらばらにならないよう、すべての型に番号がふってありました。
貝合わせのようになった型の内側に陶芸用の粘土を詰め、少しくぼませます。型を合わせる前に、粘土のふちにドベ(粘土を水で溶いた液)を塗り、型同士をしっかりと接着します。
しばらく時間を置いてそっと型を外すと「ねんどの石」の出来上がりです。
ただ粘土をこめて型に入れて外すという単純な作業なのですが、どうしてか、子どもも大人も夢中になっていくつも作っている様子が伺えました。「自分が出かけて海岸でひろった大切な思い出の石のようで、作り終わったあと、1つ1つ可愛くて愛着がわきました」といった感想もいただき、堀さんの作品の世界観に入り、追体験するような気持ちなった方もいたようです。
最後に、自分で作った「ねんどの石」を持って、もう一度、堀さんの作品が置かれている場所に向かいました。各々が作品の中に石を置いて、このワークショップは完結となります。
他人の作品の中に自分の制作物を置くという得難い経験だからもかもしれませんが、この行為に対して色々な感想を寄せてくださった方が多く見られました。「堀さんの作品の雰囲気を壊さないように置いた」、「置き場所を考えていたら、今まで見えなかった漂流物が見えてきた」、「自然に見えるように置こうと思ったが、何が自然なのか分からなくなった」等々、ここまでの一連の行為のを意識して、皆さん静かに考えを巡らせながら、堀さんの作品に一石を投じていました。
「見る」「聞く」「作る」「作品に入る」という 一連の行為を通して、「はじめて作品を見たときより作品の距離感を近く感じ、前後で感じ方が違って不思議な感覚でした」という感想や、「実際に置くことで石が生きていくように感じました」といった貴重な感想もいただきました。
参加者の皆さんが置いた「ねんどの石」は乾燥しきっていないため、もともと置かれていたものより濃い色をしています。時間の経過とともに、ゆっくりと作品と同化していく風景は、堀さんがこの作品を作ろうと思ったきっかけのひとつ、粘土という素材の特性「いずれ粉々に砕けて無くなっていく」という時間の流れに自ずと内包されていくようにも見えました。ワークショップという限定的な時間さえ、あたかも自然に受け止めてしまう、堀さんと作品の懐の深さを改めて実感しました。