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2/1・2/2 実技講座「水彩で描く 風景画の世界を旅する講座」

 

 

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2月1日(土)・2月2日(日)の2日間、収蔵品展「西洋の風景画」関連講座として、「水彩で描く 風景画の世界を旅する講座」が開催されました。皆様は「風景画」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか?山や川や街が描かれていたり、その中に樹木や建造物や人々が描かれていたり…風景画のモチーフとして想像出来るものは、私たちの身近な所に広がっているのではないかと思います。今回は風景画の展覧会を鑑賞した後に、私たちにとって身近な画材の一つである水彩絵の具を使って、静岡県立美術館周辺の風景を描きました。1日完結の講座として、2日間で計20名以上の方にご参加いただきました。

 

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今回は「西洋の風景画」関連講座ということで、初めに収蔵品展「西洋の風景画」の鑑賞が行われました。今回の展示では、静岡県立美術館が数多く収蔵している風景画作品の中から、17世紀以降の西洋の風景画が展示されました。作品のご解説をしていただきましたのは、今回の展覧会をご担当された、当館学芸員の新田さんです。

西洋の風景画は一体どのように描かれているのでしょうか?今回はその風景表現に焦点を当てて解説をしていただきました。1630年代後半に描かれたとされる、クロード・ロランの風景画≪笛を吹く人物のいる牧歌的風景≫の例では、中央の大きな木と、その下に集まる人々や手前で草を食む家畜の姿が最初に目に飛び込んで来ます。そのままじっくり見ていると、その周囲の草原の様子や後ろにある建物なども見えてきます。更によく見ていくと、遥か後方に遠くの山の景色などが描かれていることに気が付きます。このように、風景画の構図は大きく3つに分けることができ、作者の意図で見る人の目が自然と誘導されるように描かれているそうです。

 

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今回の展覧会では、パウル・クレーによる不思議な風景画作品も展示されました。パウル・クレーの≪ホールC.エントランスR2≫という作品は、建物やその柱のような物が描かれていますが、その遊びのある空間表現が非常に独特とのことです。色彩と格子で表現された世界は、見る人によって空間を様々に捉えることができます。このように、風景表現は作品によって様々なようですが、全体を通して「作者が自分の見せたいように作品を作っている」と言えるそうです。参加者の方は時々質問なども挟みながら、学芸員の新田さんの解説を大変興味深そうに聞いていらっしゃいました。

 

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鑑賞後は実技室に戻り、今回講師としてお越しいただいた好宮佐知子さんより、自己紹介をしていただきました。また、スライドを使ってこれまで制作された風景画の作品などもご紹介いただきました。

 

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好宮さんは、普段日常の中で目にした光景を記憶を頼りに描かれているそうで、水彩絵具、水彩ガッシュの他、フレスコによる風景の作品などを制作されているそうです。窓をテーマにした作品も数多く制作されており、柔らかい光の表現や、優しいタッチで描かれた作品の数々がとても印象的でした。好宮さんはご自身の作品を紹介しながら、今回は気になった光景や美しいと思った風景を、自分の素直な感覚と向き合いながら描いてみてほしいとお話しされました。

 

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好宮さんによるご紹介の後は、スケッチ用紙と鉛筆を手に風景のスケッチへ出発です!幸い2日間とも好天に恵まれ、外でスケッチをすることができました。美術館のエントランスを出てすぐの広場では、さっそく美術館からの眺めを描いている方がたくさんいらっしゃいました。普段見慣れているはずの光景も、改めてよく観察してみると、新しい魅力に出会うことができます。

 

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美術館の2階入り口へと続く外階段からの眺めをスケッチしている方も多くいらっしゃいました。好宮さんもご一緒に美術館周辺を散策しながら、参加者の方にお声掛けをして回りました。景色の中で気になった部分をクローズアップして見てみると…曲がりくねった木の枝や水面の揺らめき…そんな光景も、いつもより面白く見えてくるかもしれません。

 

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移動しながら色々な風景を描いて回っている方や、一か所に留まってじっくり描いている方まで様々です。特に2日目の日曜日は美術館周辺の人の往来が多く、それも風景の一部としてスケッチしている方が多かったです。また、静岡県立美術館の周りは自然が多く、運が良ければ野鳥や動物に出会うこともあります。タイミング次第では、そんな偶然の出会いを風景画の中に描くのも楽しいですね。

 

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移動範囲に特に制限はないので、プロムナードの入口付近や芝生広場、更に下った所にあるお店の近くまでスケッチに出かけた方もいらっしゃいました。予め何となく描きたい風景をイメージされて来た方も多かったようです。

 

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お昼休憩を挟み、午後からは実技室で風景画制作のスタートです。今回は、画用紙の水張りの必要がないイラストレーションボード(F4サイズ)に描きます。水彩絵の具の中にもいくつか種類がありますが、今回は不透明水彩、透明水彩、そしてその中間程度と言われるサクラマット水彩などを使って描いていただきました。不透明水彩は、下の色の上から別の色を重ねて描いていく事が得意な絵の具です。一方透明水彩は、色を重ねても下の色は透けて見えるのが特徴です。

 

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スケッチを元に、鉛筆で軽く下描きをしてから水彩で描いていきます。参加者の方の制作を見守りながら、講師の好宮さんがお一人ずつ、丁寧にアドバイスをして回られていました。

 

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画材に慣れている方はどんどん描き進めていました。今回、水彩絵の具はそれぞれご持参いただきましたので、参加者によって絵の具の質感も少しずつ異なっているように感じました。

 

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「西洋の風景画」展鑑賞時の解説で、見せたい部分は細かく描き込み、そうでない部分はあっさりと描いている…という説明がありました。絵の中のどの部分を自分が見せたいかによって、描き込む必要のある部分も変化します。

 

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実際の風景をそのまま描いてみたり、組み合わせてみたり、色だけアレンジしてみたり…皆様それぞれの「描きたい!」が風景画の作品に表れていました。

 

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約3時間の制作時間で、素敵な風景画が完成しました!講座の最後に、全員の方の作品を並べて、感想会を行いました。すべて静岡県立美術館周辺の風景がモチーフとなっていますが、どこを描いた作品か分かるでしょうか?外の風景だけでなく、美術館の中にある風景を描いた方もいらっしゃいました。

 

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ずっと気になっていた美術館の作品を描いたという方も。

 

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木の表現を見比べてみても、筆のタッチがそれぞれ違っていて味わい深いです。

 

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水彩の柔らかい濃淡が、風景画の中に空気間を生み出していますね。

 

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2日間とも、プロムナードの並木の景色を選んで描いている方が多めでした。「西洋の風景画」展の中に、ジャン=バティスト・カミーユ・コローによる≪メリ街道、ラ・フェルテ=ス=ジュアール付近≫という道を描いた作品が出品されましたが、画面の奥へと続く道の表現が、どこかその雰囲気に似ているようにも感じられます。

 

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構図にもそれぞれの「描きたい!」が詰まっています。同じ景色でも、他の人の目を通して見てみると、全く違って見えているのがとても面白いです。

 

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今まで風景画についてよく知らなかったという方も、描いた経験のある方も、今回の講座で更に風景画に対する知識を深めていただけたのではないでしょうか?また、今回講師をご担当いただいた好宮さんには、講座終了まで大変丁寧にご指導をしていただきました。2日間ご指導いただき、本当にありがとうございました!

静岡県立美術館では、風景画の収集を一つの方針に、作品を数多くコレクションしております。風景画の展覧会の際には是非また足を運んでいただき、風景画の世界を楽しんでいただけましたら幸いです。

 

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1/12 わくわくアトリエ「機械と朗読」

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1月12日(日)、「やなぎみわ展 神話機械」関連ワークショップとして「機械と朗読」が開催されました。ワークショップでは、アートと機械の融合した出品作品《神話機械》のマシンたちの運動に合わせて、参加者が自らの声で朗読を行いました。《神話機械》は、音響と照明で自律的に演劇を行う、マシンの作品です。4台のマシン作品の動きに合わせて、シェイクスピア「ハムレット」の1シーンなどの台本を朗読し、マシンと人が協力して演劇を生み出す新たな試みに挑戦しました。

 

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本ワークショップは、やなぎみわさんご本人によるご指導の下行われました。この大変貴重な機会に、遠方からお越しになった参加者の方もいらっしゃいました。

 

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先ずは当館実技室にて、やなぎみわさんや「やなぎみわ展 神話機械」を担当された当館学芸員の植松さんより、ワークショップの説明や講師紹介が行われました。朗読の為の台本となる資料なども参加者へ配布されました。

 

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展覧会の会期中は、1日3回マシンによる無人公演が行われました。この日も11時から第1回目の無人公演が行われ、参加者もマシンたちによる約15分間の演劇を鑑賞しました。ワークショップ当日に無人公演を初めてご覧になった方が大半で、午後の朗読本番への緊張感を高めながら鑑賞されているようでした。

 

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「神話機械 Myth Machines」には、4台のマシンが登場します。それぞれギリシア神話に登場する女神の名前が付けられており、音響や照明を司るメインマシンには、「タレイア」の名が付けられています。≪タレイア(メインマシン)≫はプログラミングにより自律的に舞台上を動き回ることが出来ます。本来はこのメインマシンが言葉や音楽を発しますが、朗読の本番時には≪タレイア(メインマシン)≫は動作と照明のみで音は一切発さないようにし、代わりに参加者が声を当てる事で演劇を完成させます。その他、音などに反応して振動する≪テルプシコラー(振動マシン)≫、人の手脚の形をした≪メルポメネー(のたうちマシン)≫、頭蓋骨を壁に投げ付ける≪ムネーメー(投擲マシン)≫などが共演します。

 

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11時からの無人公演を鑑賞後、実技室に戻り朗読の練習がスタートしました。先ずは、配布された「ハムレット」の1シーンなどが書かれた台本を元に、自分の演じる内容を決めます。今回は用意された台本をそのまま朗読するのではなく、数あるセリフや資料の中から自分で言葉を選び抜き、組み合わせる事でオリジナルの台本を作るところから始まります。

 

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朗読は2人1組のチームになって行います。チームごとに30秒~2分程度の時間が割り当てられ、その時間内に収まるようにセリフを決めます。この日初めて会う方同士でチームとなったグループがほとんどでしたが、台本作りが始まると早速お互いに相談し合いながら、台本の資料に熱心に目を通していました。チームごと読み上げる内容を決めたところで、今度はチーム同士のバランスを調整します。やなぎみわさんのアドバイスや指示により、セリフの内容が重複していたチームの台本を変えたり、読み手を入れ替えてみたりと、細かな試行錯誤が続きました。午前中のうちに読み上げる内容が少しずつ決まり、一度お昼休憩となりました。

 

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午後14時からは、この日2回目の無人公演が行われました。参加者は自分のセリフが書かれた台本を片手に、マシンの動くタイミングと朗読を合わせるタイミングを、静かに確かめていました。今回は≪タレイア(メインマシン)≫が照射を行っている間の時間が朗読時間となります。約15分間の公演の中で≪タレイア(メインマシン)≫が照射を行うタイミングは複数回あり、それぞれ照射時間も異なります。参加者は自分に割り当てられた部分の照射のタイミングがどこなのかを慎重にチェックしていました。

 

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朗読の練習もそろそろ終盤に差し掛かってきました。ストップウォッチなども利用しながら、読み上げる速さにも気を配ります。やなぎみわさんにより、声の大きさや調子など、演劇に関する専門的なレクチャーも時折挟みながら進められました。何度か全員での通し練習も行われ、セリフの調整などを繰り返しているうちに、あっという間に本番の時間が近づいてきました。

 

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16時からの3回目の無人公演後、特別公演としていよいよ「機械と朗読」の本番が行われました。本番ではマイクを使って朗読をしていただきました。これまでの公演ではあったはずの音響は消され、緊張感漂う静けさの中、参加者の方の目一杯の声がマシンに合わせて響き渡りました。練習時間も短かった中ほとんど一発勝負での朗読本番となりましたが、全員の方が協力して息を合わせ、見事にそれぞれの役を演じ切っていました。最後は、台本に登場する歌をセリフとして選んだ方による、コミカルな曲調の歌で特別公演は幕を下ろしました。シリアスなセリフだけで作るのではなく滑稽さも織り交ぜるなど、やなぎみわさんのアドバイスと参加者の方のアイデアが組み合わさった、大変抽象的で遊び心のある演劇が完成しました。

たった一度きりの正に「特別な公演」となりましたが、今回のワークショップを通じて、やなぎみわさんの作品の世界に深く浸ることが出来たのではないでしょうか。特に演劇や美術を学んでいる方にとっては、滅多にない貴重な機会だったのではないかと思います。「機械と朗読」を見事に演じてくださった参加者の皆様、本当にありがとうございました。

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11/23-24 創作週間スペシャル・木版画「色彩木版画カレンダーで新年を飾ろう!!!」

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11月23日と11月24日の2日間、創作週間スペシャル「色彩木版画カレンダーで新年を飾ろう!!!」が開催されました。静岡県立美術館の実技室では、月に5日間、誰でも自由に制作活動ができるアトリエとして実技室を開放している「創作週間」を開催しています。そして「創作週間スペシャル」は、更に専門的な技法を学びたい方向けの講座として、年数回開催しております。今回の「創作週間スペシャル」では、一年間お部屋に飾ることをテーマに、木版画作品で2020年のカレンダー作りに挑戦しました。木版画がほとんど初めてという方から、いつもご参加いただいている方まで、幅広い皆様にご参加いただきました。

 

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今回ご指導いただきましたのは、木版画家・藤田泉先生です。いつも「創作週間」の際にも長年講師としてお越しいただいている、藤田先生。今回の講座のために、ご自身で制作された木版画の作品や版をたくさん持って来てくださいました。下絵から完成した作品まで、途中の工程が分かる資料までご用意いただき、大変参考になりました。今回お持ちいただいた参考作品は、先生ご自身がカレンダー用に制作されたものだそうです。草花や虫、動物などが描かれた四季の美しさを感じる先生の作品に、参加者の方の注目が集まっていました。

 

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「色彩木版画」は色ごとに版を分け、摺る時に重ね合わせることで1つの作品を作っていきます。色数が多いほど多くの版が必要となり、その分時間も根気も必要となります。2日間の短い時間での制作となるため、参加者の方には、事前に下絵を描いて来ていただきました。中には着彩のイメージまでしっかりスケッチブックに描き込んで来てくださった方も…。描いた下絵は、先ず初めにトレーシングペーパーに写します。次にそれを反転させた状態で、色ごとに分けて版木へと転写していきます。今回、版木は1人2枚まで使うことができるので、裏表を全て使えば最大4版まで作ることができます。

 

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版木に下絵を写し終えたら、次は彫りの工程になります。彫刻刀を使い版木を彫っていきますが、なかなか普段使い慣れていないと難しい工程となるので、藤田先生より彫刻刀の持ち方や使い方についてレクチャーしていただきました。彫刻刀は一般的に、切り出し刀、平刀、丸刀、三角刀の4種類が使われることが多いですが、今回もこれらを使い分けることで作品を彫り進めていきます。最初に登場するのが、刃先が刀のように尖った形の切り出し刀です。絵の外側に向かって斜めになるように握り、下絵をなぞるように切り込みを入れていきます。その後、他の3種の彫刻刀を使い分けながら、不要な部分をさらっていきます。

 

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レクチャーを受けた参加者の皆様も、さっそく自分の作品を彫り始めていきます。先生が彫っている姿は簡単そうに見えても、自分でやってみるとなかなか難しいもの…。必要な部分までさらってしまわないように、慎重に彫り進めます。作品の絵となる部分の他に、「見当」も一緒に彫る必要があります。「見当違い」の語源とも言われるこの「見当」は、複数の版がある場合に、それらをピッタリと合わせて摺るための、ガイドの役割を果たす印となります。長時間彫刻刀を握り続けるかなり集中力のいる作業ですが、勿論安全第一で皆様には彫り進めていただきました。

 

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特に最大数である4版分の制作が必要な方にとって、彫りは本当に大変な工程だったと思います。お昼休みや休憩も挟んでいただきながら、大半の方が1日目のほとんどを彫りの作業に力を注いでいました。終了後は、家に帰ってゆっくり手を休めていただきたい…と思うところですが、家でも続きを頑張ると道具を一式持ち帰った方も中にはいらっしゃいました。皆様のやる気の高さには、スタッフ一同本当に感服いたします。

 

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作業の早い方のために、一日目のうちに摺りのレクチャーも行われました。使用するのは、事前に制作したスタッフによる作品です。彫り終えた版木は、摺る前に霧吹きなどを使って湿らせ、乾かないようにビニールシートに閉じておきます。これと同じように、摺る紙の方も事前に湿らせておきます。

 

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木版画の摺りの工程では、様々な専用の道具を使用します。竹ぼうきを小さくしたような見た目の「はこび」は、水で溶いたヤマト糊を版木に乗せたり、溶いた絵の具を刷毛に付けたりする時に使用します。ヤマト糊を版木に乗せたら、上から絵の具を付けた刷毛で、絵の具と糊を混ぜ合わせるように色を刷り込んでいきます。

 

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色を乗せ終えたら、版木の「見当」にピッタリ合うように慎重に紙を置きます。滑りが良くなるように、間に「当て紙」を敷き、最後に椿油を薄く塗った「ばれん」で摺ります。

 

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そして、ゆっくり紙をめくってみると…とてもきれいに摺り上がっています!紙を持ち上げる前に、片側に文鎮を置いておくことも忘れずに。もし摺りが足りなかった時なども、そのままの位置でやり直すことができます。この作業を、作った版の数だけ繰り返せば完成です!

 

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参加者の皆様の制作の様子も見ていきましょう。一番早い方は、2日目の午前中には摺りの作業に入っていました。木版画の経験が何度もある方は、慣れた手付きでどんどん摺りを進めます。

 

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中には色をグラデーションにする、上級者向けの技法に挑戦された方も!今回は水彩絵の具を使用していますが、水を上手く使うことで、きれいなグラデーションを作ることも可能です。色の乗せ方によって様々な表現を楽しむ事ができるのも、木版画の魅力の一つですね。

 

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下絵のイメージ通りに摺るのはとても難しいことかもしれませんが、そんな皆様の葛藤にも、藤田先生がお一人お一人に寄り添ってアドバイスをして回られていました。思い通りに仕上がった時の嬉しさは格別だと思いますが、時には想像と違っていても、それ以上の新しい魅力と発見が制作を後押ししてくれます。

 

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2日目の後半になると、皆様の作品が続々と仕上がってきました。色の重なりや細かい線での表現など、皆様の隅々までの拘りが素晴らしいです。

 

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そして、2020年の色彩木版画カレンダー完成!

 

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仕上がった作品を一度スキャナーでパソコンに取り込み、編集をしてからカレンダーとしてプリントアウトしました。プリントアウトしたものでも、木版画独特の温かみはしっかりと感じられます。

 

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カレンダー部分のデザインは、参加者の方にそれぞれ選んでいただきました。作品のイメージとカレンダーのデザインがとても良く合っていて、どれも素敵ですね。

 

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また、この2日間での完成が難しかった方は、後日「創作週間」の藤田先生の在室日に、また改めてお越しいただきました。最後は無事、全員の方のカレンダーが完成しました!お忙しい中ご来館いただきまして、誠にありがとうございました。そして木版画の制作、本当にお疲れ様でした!

 

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こちらは、途中でレクチャーの際に登場したスタッフによる作品です。色が変わり、作品の印象もまたがらりと変わっています。木版画でしか表現できない毛並みの表現がとても味わい深いですね。

 

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最後は、講師の藤田先生による作品のカレンダーです。今回の講座の参考作品として、広報などにも使用させていただいた作品になります。≪花窓≫というタイトルの作品だそうですが、その名前の通り、花と図形のパターンと、色のコントラストがとても印象的で美しいです。

 

木版画の作品をカレンダーにして飾ると、木版画の作品がもっと身近に感じられるのではないかと思います。制作にご参加いただいた皆様には、是非一年間、お部屋に飾っていただけましたら嬉しいです。また、これからも木版画の制作を続けたい方や、これから新しく木版画を始めてみたいと思う方は、是非「創作週間」の藤田先生在室日にお越しください。(詳しくは、静岡県立美術館公式ホームページより、最新の実技室プログラムの情報をご確認ください。)スタッフ一同、いつでも皆様のまたのご参加をお待ちしております!

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11/9-10 実技講座「イタリアの空の下~風景と遺跡をエッチングで描こう!」

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11月9日と10日の2日間に渡り「古代への情熱」展関連企画として、実技講座・銅版画「イタリアの空の下~風景と遺跡をエッチングで描こう!」が行われました。本展覧会では、16~18世紀にかけての都市ローマと南イタリアに残る遺産を主題とした数多くの銅版画が出品され、講座ではその出品作品の模写を通して、銅版画の基本やエッチングの技法を学びました。

 

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本講座で講師をお務めいただいたのは、版画家・柳本一英先生です。月に一度、当館実技室をアトリエとして開放している「創作週間」の際にも、銅版画のインストラクターとしていつもお越しいただいています。

 

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最初に、小さいサイズの銅板を使ってデモンストレーションを行いました。エッチングの技法で制作する際の一連の流れについて、実際に使う道具などを用いながらレクチャーをしていただきました。

 

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エッチングの工程は、先ず銅板の表面をグランド(腐食防止液)で薄く覆い、それを乾燥させます。乾いたらニードルなど先の尖った物をペンのように使い、グランドを削り取るように図を描いていきます。グランドを剥がした部分は下の金属が露出するため、そこに腐食液(塩化第二鉄)を作用させると金属の部分だけが腐食されて溝となり、凹版が完成するという仕組みになっています。デモンストレーション後は早速参加者の皆様にも、エッチングの基盤となるグランドを表面に塗る工程をそれぞれ行っていただきました。

 

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グランドを乾燥させている間に、「古代への情熱」展の鑑賞を行いました。本展覧会をご担当された当館学芸員の新田さんより、出品作品についてご解説していただきました。

 

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本展覧会では、18世紀イタリアで活躍したジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージによる版画が数多く出品されました。ピラネージは都市ローマの景観を多く描いた版画家であり、また古代研究家としての一面もあったそうです。今回はピラネージの作品を中心に、その表現技法に焦点を当てご解説していただきました。表現技法の一つとして、平行線や網掛け状の線を複数引いて形や陰影を描く、ハッチングと呼ばれる技法があります。特に空や雲の表現に注目してみると、画家によってハッチングの表現は様々であることに気が付きます。ピラネージの作品は、線と線を交差させず、一方向の平行線を何度も引くことによって描いた表現がとても特徴的だそうです。ピラネージのまるで定規を使って描いたかと思うほどの細密な線表現に、多くの参加者の方が見入っている様子でした。

 

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鑑賞後実技室に戻り、下絵作りからスタートです。今回は模写が基本ということで、予めピックアップした展覧会の出品作品の中から選んでいただきました。2日間で作品をまるごと全て模写するのは大変なので、銅板のサイズに合わせた枠を使い、描きたい一部分をトリミングして作ります。下絵は反転させた状態で描く必要があるため、先ずはトレーシングペーパーに選んだ作品を写し取ります。写したトレーシングペーパーをひっくり返せば、簡単に反転した状態の下絵が完成です。グランドをしっかり乾燥させた銅板上に、カーボン紙を使って反転させた下絵を転写します。

 

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転写が終わった方から、ニードルを使って下絵を描いていきます。ここではグランドを剥がす事が目的となるので、力を込めて銅板を傷付ける必要はありません。外枠のまっすぐな線には、定規を利用します。

 

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中には出品作品の資料と、ご自身でご用意いただいた図を組み合わせて描いている方もいらっしゃいました。どんな作品になるのか楽しみです。

 

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ニードルで絵を描き終えたら、今度は銅板の腐食を行います。エッチングの技法では、人力ではなく腐食液による化学反応を利用して、銅板に溝を作ります。金属が出ている部分は全て腐食してしまうため、グランドを引いていない裏面には、腐食を防止する壁紙(シール)を忘れずに貼ります。この腐食までの工程で、1日目は終了となりました。

 

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2日目からは、いよいよ摺りの工程に入ります。今回は、黒とセピアの2種類のインクをご用意しました。インクは、専用のプレートの上でプレートオイルと混ぜ合わせ、使いやすい固さに調節してから使います。

 

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練ったインクをヘラで銅板に乗せ、溝に入るように馴染ませます。

 

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寒冷紗という粗目の布を使って余計なインクを拭き取り、更に薄い紙を使ってインクを拭き取っていきます。ここでの拭き取り具合によって、摺りの仕上がりは大きく変化するため、とても難しい工程の一つと言えます。

 

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最後はプレス機を使って摺ります。今回のような凹版では、プレス機の圧力によって溝に入ったインクを押し出すことで、紙に摺ることが出来ます。

 

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版と紙をセットする位置が分かりやすいように、ベッドプレート上に油性ペンで印を付けてあります。

 

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摺る紙は予め湿しておき、摺る直前まで乾かないように保管しておきます。印にピッタリ合わせて版と紙をセットしたら、ハンドルを一定の速さで回して摺ります。

 

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インクで汚れないように気を付けながら紙を持ち上げると…綺麗に摺り上がっていました! 時間をかけて描いた作品がどんな仕上がりになっているか、初めて分かる瞬間です。思い通りに摺れていた時には、喜びもひとしおです。

 

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無事摺り終えた後は、片付けも忘れずに。プレス機の表面に付いたインクは、次に摺る時に汚れないよう綺麗に拭き取ります。版の溝に残ったインクは、灯油やホワイトガソリンと言った溶剤を使えば、簡単に落とすことが出来ます。

 

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銅版画の制作は、以上の作業の繰り返しになります。何度も腐食と摺りを繰り返し、納得のいく仕上がりになるまでチャレンジします。初めは一つ一つの工程も慣れていないと難しいですが、2~3回目の摺りからは、スタッフの手助け無しでもどんどん進めている方がほとんどでした。

 

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時には講師の柳本先生のアドバイスにより腐食時間を調整してみたり、インクの拭き取り具合を変えてみたり、参加者の方それぞれの理想に近づくべく試行錯誤が続きました。

 

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そして…遂に作品の完成!最後に完成作品を並べて感想会が行われました。作品を見ていると、まるで18世紀当時のイタリアに迷い込んだような気持ちになります。

 

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腐食時間の長さによって濃淡を調節するのも技法の一つです。これによって遠近感を生み出すことも可能です。

 

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線表現にもそれぞれの個性を感じます。平行線であったり交差させた線であったり、元の作品や描く方によって、捉え方と描き方は様々です。

 

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同じ版でも、インクの色を変えると作品の印象もまた大きく変わります。セピア色はどこか懐かしく、温かい雰囲気になりますね。

 

今回の講座では、イタリアの空の下を散策しているような気分になれる、素敵な作品がたくさん完成いたしました。銅版画やエッチングの基礎を学んだ後改めて当時の作品を見てみると、その技術の高さや奥深さに感動するのではないかと思います。更に銅版画の技法を学んでみたい方やこれから経験してみたいという方は、「創作週間」の柳本先生在室日に是非足を運んでみてください。先ずは一度見学してみたいという方もお待ちしております。詳しくは、静岡県立美術館公式ホームページのイベント一覧より、最新の開催情報をご確認ください。

 

 

 

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11/4 わくわくアトリエ「型取りの方法で 粘土の石をつくって、堀さんの作品に参加しよう。」

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11月4日に「めぐるりアート静岡」関連企画として、わくわくアトリエ「型取りの方法で 粘土の石をつくって、堀さんの作品に参加しよう。」が行われました。「めぐるりアート静岡」は、静岡に所縁のある作家を招聘し「今を生きるアート」を紹介する展覧会です。7回目を迎えた今年は、静岡県立美術館、静岡市美術館、中勘助文学記念館、東静岡アート&スポーツヒロバ、小梳神社の各会場で、彫刻、絵画、インスタレーション、パフォーミングアーツ、野点といった多彩な表現を通して現代美術作品が展示されました。(会期は11/10に終了しました)

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このプログラムでは、当館の展示を担当した美術家の堀園実さんを講師に招き、作品参加型のワークショップを実施しました。堀さんの作品を「見る」、アーティストトークを「聞く」、作品を構成する要素である「ねんどの石」を作家と同じ方法で「作る」、さらにその「ねんどの石」を堀さんの作品の中に置くという一連の行為を通して、ひとつの作品について深く考えをめぐらせていただくことが今回のワークショップの狙いでした。小学1年生~6年生、大学生、大人など、年齢層も幅広く、午前午後とも20名以上のご参加がありました。

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はじめに「見る」ことからスタート。堀さんの作品を参加者の皆さんのペースに任せて自由に鑑賞していただきました。様々な年齢層の方が集まったことから、現代美術作品を目にすること自体が初めての方もいると想定し、鑑賞に入る前に作品について感想を書き留められるシートを渡しました。「作品を見てどんなことを感じましたか?面白いところ、疑問に思ったところを教えてください」など、どの世代の方にも答えられそうな問いかけを用意し、漢字にはルビをふりました。シートの記入については任意でしたが、堀さんの作品を前に、皆さん色々なことを感じ取ったようで、一生懸命に書き留めている様子が印象的でした。「小石がいっぱい。色んなかたちがおもしろい」といった子どもの素直な感想から「虚無や死を感じる」という感受性豊かな大人の方の感想まで、作品の第一印象は本当に様々でした。そして、作品を鑑賞しただけでは分からない、どうして?なぜ?そのような表現にいたったのか、という点について多くの方が疑問を持たれたようでした。

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次に作家や作品にまつわる話を「聞く」時間を設けました。床に座って作品を囲み、堀さんと当館の現代美術を担当する川谷学芸員との対談形式のアーティストトークが行われました。目線が低くなるとぐっと作品に近づいたように感じられました。《なみうちぎわの協和音》は、堀さんが清水の海岸で拾ってきた石や漂流物から型を取って、美術館のエントランスに再構成された作品です。堀さんがどういった過程を経てこの表現方法にたどり着いたのか、美大生の時に感じていたことやフランスでの滞在制作を通して経験したこと、地元静岡に帰ってきてからの気持ちの変化といったお話を伺っていくうちに、作品が堀さんの「今」と地続きにあることが感じられ、皆さんのコメントからも共感や驚き、親近感へと変化していった様子が見られました。

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つづいて実技室に戻り「作る」体験をしていただきました。堀さんが清水の海岸の石から作った石膏型を使って、皆さんにも「ねんどの石」を作っていただきました。上の写真に写っているのはごく一部で、合わせがばらばらにならないよう、すべての型に番号がふってありました。

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「ねんどの石」の作り方。

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貝合わせのようになった型の内側に陶芸用の粘土を詰め、少しくぼませます。型を合わせる前に、粘土のふちにドベ(粘土を水で溶いた液)を塗り、型同士をしっかりと接着します。

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しばらく時間を置いてそっと型を外すと「ねんどの石」の出来上がりです。

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ただ粘土をこめて型に入れて外すという単純な作業なのですが、どうしてか、子どもも大人も夢中になっていくつも作っている様子が伺えました。「自分が出かけて海岸でひろった大切な思い出の石のようで、作り終わったあと、1つ1つ可愛くて愛着がわきました」といった感想もいただき、堀さんの作品の世界観に入り、追体験するような気持ちなった方もいたようです。

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最後に、自分で作った「ねんどの石」を持って、もう一度、堀さんの作品が置かれている場所に向かいました。各々が作品の中に石を置いて、このワークショップは完結となります。

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他人の作品の中に自分の制作物を置くという得難い経験だからもかもしれませんが、この行為に対して色々な感想を寄せてくださった方が多く見られました。「堀さんの作品の雰囲気を壊さないように置いた」、「置き場所を考えていたら、今まで見えなかった漂流物が見えてきた」、「自然に見えるように置こうと思ったが、何が自然なのか分からなくなった」等々、ここまでの一連の行為のを意識して、皆さん静かに考えを巡らせながら、堀さんの作品に一石を投じていました。

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「見る」「聞く」「作る」「作品に入る」という 一連の行為を通して、「はじめて作品を見たときより作品の距離感を近く感じ、前後で感じ方が違って不思議な感覚でした」という感想や、「実際に置くことで石が生きていくように感じました」といった貴重な感想もいただきました。

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参加者の皆さんが置いた「ねんどの石」は乾燥しきっていないため、もともと置かれていたものより濃い色をしています。時間の経過とともに、ゆっくりと作品と同化していく風景は、堀さんがこの作品を作ろうと思ったきっかけのひとつ、粘土という素材の特性「いずれ粉々に砕けて無くなっていく」という時間の流れに自ずと内包されていくようにも見えました。ワークショップという限定的な時間さえ、あたかも自然に受け止めてしまう、堀さんと作品の懐の深さを改めて実感しました。