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11/9-10 実技講座「イタリアの空の下~風景と遺跡をエッチングで描こう!」

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11月9日と10日の2日間に渡り「古代への情熱」展関連企画として、実技講座・銅版画「イタリアの空の下~風景と遺跡をエッチングで描こう!」が行われました。本展覧会では、16~18世紀にかけての都市ローマと南イタリアに残る遺産を主題とした数多くの銅版画が出品され、講座ではその出品作品の模写を通して、銅版画の基本やエッチングの技法を学びました。

 

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本講座で講師をお務めいただいたのは、版画家・柳本一英先生です。月に一度、当館実技室をアトリエとして開放している「創作週間」の際にも、銅版画のインストラクターとしていつもお越しいただいています。

 

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最初に、小さいサイズの銅板を使ってデモンストレーションを行いました。エッチングの技法で制作する際の一連の流れについて、実際に使う道具などを用いながらレクチャーをしていただきました。

 

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エッチングの工程は、先ず銅板の表面をグランド(腐食防止液)で薄く覆い、それを乾燥させます。乾いたらニードルなど先の尖った物をペンのように使い、グランドを削り取るように図を描いていきます。グランドを剥がした部分は下の金属が露出するため、そこに腐食液(塩化第二鉄)を作用させると金属の部分だけが腐食されて溝となり、凹版が完成するという仕組みになっています。デモンストレーション後は早速参加者の皆様にも、エッチングの基盤となるグランドを表面に塗る工程をそれぞれ行っていただきました。

 

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グランドを乾燥させている間に、「古代への情熱」展の鑑賞を行いました。本展覧会をご担当された当館学芸員の新田さんより、出品作品についてご解説していただきました。

 

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本展覧会では、18世紀イタリアで活躍したジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージによる版画が数多く出品されました。ピラネージは都市ローマの景観を多く描いた版画家であり、また古代研究家としての一面もあったそうです。今回はピラネージの作品を中心に、その表現技法に焦点を当てご解説していただきました。表現技法の一つとして、平行線や網掛け状の線を複数引いて形や陰影を描く、ハッチングと呼ばれる技法があります。特に空や雲の表現に注目してみると、画家によってハッチングの表現は様々であることに気が付きます。ピラネージの作品は、線と線を交差させず、一方向の平行線を何度も引くことによって描いた表現がとても特徴的だそうです。ピラネージのまるで定規を使って描いたかと思うほどの細密な線表現に、多くの参加者の方が見入っている様子でした。

 

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鑑賞後実技室に戻り、下絵作りからスタートです。今回は模写が基本ということで、予めピックアップした展覧会の出品作品の中から選んでいただきました。2日間で作品をまるごと全て模写するのは大変なので、銅板のサイズに合わせた枠を使い、描きたい一部分をトリミングして作ります。下絵は反転させた状態で描く必要があるため、先ずはトレーシングペーパーに選んだ作品を写し取ります。写したトレーシングペーパーをひっくり返せば、簡単に反転した状態の下絵が完成です。グランドをしっかり乾燥させた銅板上に、カーボン紙を使って反転させた下絵を転写します。

 

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転写が終わった方から、ニードルを使って下絵を描いていきます。ここではグランドを剥がす事が目的となるので、力を込めて銅板を傷付ける必要はありません。外枠のまっすぐな線には、定規を利用します。

 

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中には出品作品の資料と、ご自身でご用意いただいた図を組み合わせて描いている方もいらっしゃいました。どんな作品になるのか楽しみです。

 

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ニードルで絵を描き終えたら、今度は銅板の腐食を行います。エッチングの技法では、人力ではなく腐食液による化学反応を利用して、銅板に溝を作ります。金属が出ている部分は全て腐食してしまうため、グランドを引いていない裏面には、腐食を防止する壁紙(シール)を忘れずに貼ります。この腐食までの工程で、1日目は終了となりました。

 

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2日目からは、いよいよ摺りの工程に入ります。今回は、黒とセピアの2種類のインクをご用意しました。インクは、専用のプレートの上でプレートオイルと混ぜ合わせ、使いやすい固さに調節してから使います。

 

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練ったインクをヘラで銅板に乗せ、溝に入るように馴染ませます。

 

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寒冷紗という粗目の布を使って余計なインクを拭き取り、更に薄い紙を使ってインクを拭き取っていきます。ここでの拭き取り具合によって、摺りの仕上がりは大きく変化するため、とても難しい工程の一つと言えます。

 

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最後はプレス機を使って摺ります。今回のような凹版では、プレス機の圧力によって溝に入ったインクを押し出すことで、紙に摺ることが出来ます。

 

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版と紙をセットする位置が分かりやすいように、ベッドプレート上に油性ペンで印を付けてあります。

 

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摺る紙は予め湿しておき、摺る直前まで乾かないように保管しておきます。印にピッタリ合わせて版と紙をセットしたら、ハンドルを一定の速さで回して摺ります。

 

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インクで汚れないように気を付けながら紙を持ち上げると…綺麗に摺り上がっていました! 時間をかけて描いた作品がどんな仕上がりになっているか、初めて分かる瞬間です。思い通りに摺れていた時には、喜びもひとしおです。

 

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無事摺り終えた後は、片付けも忘れずに。プレス機の表面に付いたインクは、次に摺る時に汚れないよう綺麗に拭き取ります。版の溝に残ったインクは、灯油やホワイトガソリンと言った溶剤を使えば、簡単に落とすことが出来ます。

 

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銅版画の制作は、以上の作業の繰り返しになります。何度も腐食と摺りを繰り返し、納得のいく仕上がりになるまでチャレンジします。初めは一つ一つの工程も慣れていないと難しいですが、2~3回目の摺りからは、スタッフの手助け無しでもどんどん進めている方がほとんどでした。

 

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時には講師の柳本先生のアドバイスにより腐食時間を調整してみたり、インクの拭き取り具合を変えてみたり、参加者の方それぞれの理想に近づくべく試行錯誤が続きました。

 

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そして…遂に作品の完成!最後に完成作品を並べて感想会が行われました。作品を見ていると、まるで18世紀当時のイタリアに迷い込んだような気持ちになります。

 

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腐食時間の長さによって濃淡を調節するのも技法の一つです。これによって遠近感を生み出すことも可能です。

 

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線表現にもそれぞれの個性を感じます。平行線であったり交差させた線であったり、元の作品や描く方によって、捉え方と描き方は様々です。

 

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同じ版でも、インクの色を変えると作品の印象もまた大きく変わります。セピア色はどこか懐かしく、温かい雰囲気になりますね。

 

今回の講座では、イタリアの空の下を散策しているような気分になれる、素敵な作品がたくさん完成いたしました。銅版画やエッチングの基礎を学んだ後改めて当時の作品を見てみると、その技術の高さや奥深さに感動するのではないかと思います。更に銅版画の技法を学んでみたい方やこれから経験してみたいという方は、「創作週間」の柳本先生在室日に是非足を運んでみてください。先ずは一度見学してみたいという方もお待ちしております。詳しくは、静岡県立美術館公式ホームページのイベント一覧より、最新の開催情報をご確認ください。