美術品こぼれ話

草間彌生《水上の蛍》 水換え作業

当館コレクションの中でも人気の高い《水上の蛍》。その名の通り、床には水が張ってあり、水鏡となっています。

床を鏡面にするために水を用いる理由のひとつは、継ぎ目のない完全な水平面が比較的簡単に作れることです。もしこれを人工で作ろうとすれば、最先端の工業技術をもってしても容易ではないでしょう。水面は水平であるという当たり前のことが、逆にすごいことなのだと思ってしまいます。

また、人がこの作品の中に入ると、かすかに水がゆらぎます。水面が動くと、上下前後左右6面すべてが合わせ鏡になっているこの部屋の中全体の景色が、微妙に動きます。そのとき、何か作品が息づくかのような感覚をおぼえます。これもこの作品があえて水を使っている理由の一つでしょう。

さて、この床の水には防腐剤などの薬品は一切入れていませんので、しだいに濁ってきます。そこで定期的に水を入れ換える作業をしています。

水をかき集めながら、ポンプで吸い出していきます。水深は、実は約6cm程度の浅さです。見た目では深淵のようですが。

ホースをのばして、近くのトイレの排水口へ流します。

排水、清掃、給水に約4時間かかります。中で作業していると、くらくらしてきます。けっこうな重労働です。この作業は休館日に、作品の点検を兼ねて学芸員とボランティアで行っています。

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床面の防水シートをきれいに拭いて、新しい水を入れます。少しずつ水が広がっていくのを、ぼーっと眺めているのは、なかなか至福のときです。

?《水上の蛍》の今年度の展示は、現在開催中の「百花繚乱」展が終わるまで、つまり5月15日までです。大学生以下は無料で観覧できます。お見逃しなく。