2018年09月09日(日) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。
「安野光雅のふしぎな絵本展」の関連講座として、 8月5日に実技講座の水彩画編、「オリジナルの「かぞえてみよう」をつくろう」 を開催しました。
今回の展示にも原画が出品されていた、安野光雅氏の絵本『かぞえてみよう』は、ページを追うごとに季節が進み、少しずつ増えていく木や家を数えながら、小さな町の展開を楽しむことができる絵本です。 今回の講座では、この『かぞえてみよう』をテーマに、オリジナルの「かぞえてみよう」を水彩で描いて、かんたんな絵本にしました。今回の講師は、当館実技室のインストラクター、野呂美樹さんです。
講座の冒頭では、最初に安野さんのご紹介をした後に、『かぞえてみよう』を皆で読みました。読んだことがあるかたも何名かいらっしゃったのですが、改めて、みんなで何が描かれているかお話をしながら探してみました。
そして、ページ毎に見つけたモチーフをホワイトボードに書きだします。
人物の動きにも着目すると、様々なドラマを想像することができます。参加者同士で、「この人は何をしているのかな?」「この人はこうなんじゃない?」と会話をしながら絵本を楽しみました。 短い時間でしたが、それぞれのページに描かれている、その月ならではのモチーフが沢山見つかりました。今まで本を読んだことがあった人も、新しい発見があったようです。
これをヒントにして、自分の「かぞえてみよう」に何を描くか、決めていきます。目標は、3つの数字をテーマに、3ページ描くことです。『かぞえてみよう』のルールに乗っ取って描くので、例えば「10」の数字を選ぶと、モチーフをそれぞれ、10個描く必要があります。この段階でお昼前、残り3時間程度でしたので、時間と相談して数字を選びます。一方で、周りの人たちとお話をするうちに、いろんなアイディアが浮かんできて、段々と画面がうまってきます。
着彩に入る前に、今回使う水彩と画材の説明をしました。 水彩というと、小学校のときに使った記憶がある方が多いと思いますが、改めて水彩絵の具の特長を説明しつつ、技法をいくつか紹介しました。? まず「ウエット・イン・ウエット」です。あらかじめ紙に水分を含ませたあとに、水分を多めに含んだ筆で色をとり、筆先で色を落とすと、色がにじんで表れます。そして「ドライ・オン・ウエット」、こちらは乾いた上に塗り重ねることで、水彩の透明感を用いた表現ができます。
そして、「マスキングインク」を用いた技法もご紹介しました。こちらは、画面に白抜きの箇所を作りたい時に便利です。白抜きというと、繊細な作業が必要で難しそうに見えますが、マスキングインクを使うと、おもしろいほど簡単にできます。あらかじめ白抜きにしたい箇所にマスキングインクを塗っておき、乾いたらその上から色を塗ります。絵の具が乾いたら、擦って落とすと、白抜きができているという仕組みです。
こちらは途中でスタッフがマスキングインクで試作した花火です。白抜きした後に色をつけても良いですね。
筆のつかい方、パレットのつかい方、水分のコツなども一通り説明した後に、いよいよ着彩に入ります。今回は作品のサイズが小さいので、細かい塗りが必要になります。
極細、面相筆、平筆の3種類の筆を使い分けつつ、塗っていきます。
同じ色を使う場所を一気に塗ったりなど、皆さん計画的に進めていらっしゃいました。
あっという間に時が経ち、最後に作品の鑑賞会をしました。安野さんの絵本では、小さな町が舞台になっていますが、皆さんの作品では「東京」や「京都」など、日本の具体的な地名を設定した作品がいくつか見られました。夏休みシーズンということで、この夏の思い出も交えた作品もありました。
未完成の作品が多かったのですが、後日の創作週間で、続きを制作してくださった方がいらっしゃいました。
完成作品をご紹介させていただきたいと思います。
完成すると、このような本型になります。
では中のページをそれぞれ見てみましょう。
それぞれ何の数字をテーマにしているか、考えてみてくださいね。
<1ページ目>
<2ページ目>
<3ページ目>
それぞれ何の数字をテーマにしているか、お分かりでしょうか?
静かな場所が、ページを追うごとに、たくさんの個性的なお店が立ち並ぶ賑やかな町になりました。
ページごとに、マスキングインクをお使いになっていますが、同じ白抜きでも、雪だったり、花に見えたりするのが面白いですね。
さらに、もう一つ作品をご紹介したいと思います。
<1ページ目>
<2ページ目>
<3ページ目>
ページを追うごとに、少しずつ木や人増えていき、生活の様子がうかがえるようになりました。
描かれているものや、右上に描いていただいた数字も見ると、季節も進んでいるようです。
一番最後のページの空は、夏の真っ青な空の色ですね。
お二人とも、素敵な作品を完成していただき、ありがとうございました。
今回は安野さんの筆致を追って、小さな仕掛や工夫を見つけることで、安野さんの作品をいつもと違った角度からお楽しみいただく機会になりましたら幸いです。