作れちゃう

10/1-2 実技講座・日本画「オリジナル学古図帖づくり ー古典図案を模写する-」

静岡県立美術館・実技室では、会期中の展覧会に合わせて、様々な教育普及プログラムが行われています。今回は、現在開催中の「徳川の平和-250年の美と叡智-」展に出品されている、狩野探幽による「学古図帖」(個人蔵)を題材に、日本画・模写の実技講座を実施しました。講師には、日本画家で当館創作週間のインストラクターを務める、日下文氏をお招きしました。

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狩野探幽による「学古図帖」(がっこずちょう)は、山水や花鳥、人物を描いた、古典的な表現が用いられた図柄が78図収められた、大変美しい画帖です。探幽といえば狩野派を代表する絵師ですが、「学古図帖」には、その探幽が、中国や日本の名画を再現した作品の数々が収められています。この講座では、折手本形式の台紙を作成した後、1人数点の図柄を模写して貼り付け、最終的に、「学古図帖」に倣ったオリジナルの画帖として仕上げることを目標としました。鑑賞に制作に、大変充実した2日間の様子をご紹介いたします。

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【 1日目・午前 】

はじめに、「徳川の平和」展担当の、野田麻美学芸員とともに、「学古図帖」を中心とした展覧会鑑賞を行いました。展示ケースに収められた、狩野探幽の「学古図帖」の近くには、これを基に作成したと見られる、後の年代の狩野派の絵師によるいくつかの画帖が並んでいます。今でこそ、欲しい画像があればインターネットで誰でも手に入れられ、複写まで出来てしまう世の中ですが、江戸時代の絵師にとって、中国から伝わる古の名画を知っていること、その図様を描けるということは、大変な名誉だったそうです。野田学芸員の熱い解説に耳を傾けておりますと、探幽が作成したこの一冊が、いかに重要で、貴重なものであるのかが伝わってきて、いつの間にか一般のお客様もその場を取り囲んでいました。

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展示室での鑑賞を終えた後、実技室内で「学古図帖」の高精細レプリカ(個人蔵)を鑑賞しました。展示室ではケースに入っているため、見開き1ページしか鑑賞することが出来ませんが(会期中ページが変わります)、講座では贅沢にも全78図について、野田学芸員による丁寧な解説付きで、蛇腹折りのページをめくる楽しさも味わっていただきました。

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【1日目・午後】

午後からは制作に取りかかり、まずは摸写した作品を貼り付けるための台紙を作りました。本物の「学古図帖」は、1ページずつ金箔貼りが施されており、両手で持つのも大変な大きさと厚みがあります。さすがに講座内でこれを再現するのは難しいため、「学古図帖」と同じ形式を持つ、蛇腹折りの「折手本」を参考に、A4サイズの台紙を制作していただきました。

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こちらで用意した数種類の裂(きれ)や和紙の中から好みのものを選択し、表紙や裏表紙に使用していただきました。皆さん、とても素敵なセンスで、趣味の良い取り合わせを選んで下さいました。

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折手本の形式は、書道のお手本帖や集画帖、身近なところでは御朱印帖として現在も用いられています。一度作り方を覚えてしまえば容易に制作出来るため、模写に限らず、写生帳やアルバム、スクラップブックといった、色々な用途に応用出来そうでした。

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オリジナル「学古図帖」の外側が完成しました。どなたも大きな失敗が無く、良い仕上がりになりました。

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画帖が出来上がったところで、ようやく本番です。はじめに、日下先生から「模写」に関する解説がありました。日本画における「模写」(もしゃ)とは、古典図案等をお手本に、その運筆を写し取る学習方法で、「模写」を通して、様式や技法、精神性の深い理解に及びました。現代は「模写」を学習に取り入れている美術学校は少ないのですが、狩野派はまさに、脈々と受け継がれる粉本模写により、日本絵画史上最大の画派を築き、幕府や諸大名に仕える「御用絵師」として活躍しました。

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今回は、「上げ写し」と呼ばれる技法に挑戦しました。模写する図案の上に薄美濃紙という透けるほど薄い和紙を重ね、本画の筆致を写し取っていきます。作者がどこから筆を入れたのかをよく考え、ひとつ写し終える度に和紙をめくり上げ本画を確認します。

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墨は濃淡の違うものを何種類か用意します。手には、墨を含ませた筆と、水を含ませた筆の2本を持ち、素早くぼかしながら、山水の風景を写し取っていきます。1日目は、全員同じ図案で模写の練習をして終えました。

【2日目】

2日目から、各々お好きな図柄を模写をしていただき、出来上がった方から、昨日作った台紙に貼り付けました。日本画の場合、切り貼りする工程においても独特のやり方があります。和紙を切る時は、「くいさき」という技法を用います。鋏でなく、和紙に細く水を引いてちぎります。このようにすると和紙の自然な風合いが残り、貼り合せた紙とも馴染むそうです。

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貼り付けには「生麩糊」(しょうふのり)を用います。裏打ち等にも用いられる糊ですが、生麩粉から糊を作るため、前日から準備が必要です。貼る時には糊刷毛を使い、しわにならないよう、2人がかりで貼り付けます。

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2日目は一日がかりで、図柄を写し、画帖への貼り込みを行いました。多い方は4~5点も模写の作品を完成させました。中には同じ図柄を2枚描き、自分の筆致と真剣に向き合っている方もいらっしゃいました。「探幽の線の潔さを真似ようとしても、模写であっても本当に難しい…」と言っていたのが印象的でした。

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最後に、皆さんの作品を並べ、発表会を行いました。表紙に用いた裂や和紙もところどこに見え、とても美しい仕上がりになりました。

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将軍に献上され、狩野派にとって家宝に匹敵する「学古図帖」を、本講座ご参加の皆さまが模写をしたという奇跡…。これは本当にすごいことです!この貴重な機会を得られたことで、数百年の時を越えて、「学古図帖」の存在価値や、粉本模写の大切さを感じ取ることが出来たように思います。手作りの画帖にはまだまだページがあります。これを機に、自分だけのオリジナル学古図帖を完成させていただけたら、これ以上の喜びはありません。