2015年11月29日(日) 作れちゃう
「写真家の眼/版画家の眼 6つのアンソロジー」展関連企画、銅版画講座「線と面のハーモニー」が開催されました。講師を務めて下さったのは、版画家で当館創作週間インストラクターの、柳本一英先生です。
今回の展覧会には、様々な技法を用いた銅版画が出品されています。この講座では、エッチングとアクアチントという技法を用いて「線」と「面」の表現を探求しました。下絵のテーマは「6つのアンソロジー」のひとつでもある「パリ」。参加者の皆さんそれぞれのパリのイメージを描いていただきました。
それでは、銅版画制作の工程の一部をご紹介いたします。
◆◆◆1日目◆◆◆
まずは銅板の下準備からはじめます。今回用いる技法「エッチング」や「アクアチント」は、銅版画の技法のなかでも間接法に分類されます。銅板にニードルで線を描いた後、さらに腐蝕液に浸けて溝を深くするため、銅板の裏側に防蝕シールを貼ります。
描写面もピカールで磨いてピカピカにします。何ごとも下準備をしっかり行うことが大事です…
つづいて描写面をグランドという液体で防蝕します。この面をニードルで傷つけて描写(エッチング)していきます。
凹版の場合、構図も白黒も反転するため、仕上がりを想像しながら制作を進めるのですが…これがまた一苦労なのです。
エッチングを終えたら、30分程度、塩化第二鉄に浸して腐蝕をします。
次にアクアチントという技法を用いて、半調子の面をつくります。初めに腐蝕したくない部分を黒ニス(防蝕剤)で塗り、
粉末状にした松ヤニをふりかけます。この状態で銅版を加熱すると、松ヤニが版面に付着ます。これを腐蝕液につけると、松ヤニが防蝕剤となり、ヤニとヤニの間の小さな隙間部分のみが腐蝕され、半調子の面が出来上がります。
銅版画の工程は神経を使う作業の繰り返しで、刷ってみないことには出来映えも分かりません。仕上がりが待ち遠しいところですが、1日目の工程、版づくりはこれで終了!
◆◆◆2日目◆◆◆
2日目は、午前中の間に「写真家の眼/版画家の眼 6つのアンソロジー」展を鑑賞しました。皆さん制作の工程を経験されているだけあって、銅版画の超絶技巧にため息…。西洋において銅版画は、写真という技術が無かった時代、それに代わるものとして用いられていました。日本の浮世絵(木版画)同様、本当に素晴らしい職人技が見てとれます。
刷りを始める前に、印刷用の紙を湿しておきます。両面をまんべんなく十数分水に浸して、水気をきったらビニールシートにぴっちり包んで、使うまで上から重石をしておきます。
次にインクの準備をします。はじめにインクの粘度を調整します。インクが硬い時は漉し器で漉します。さらにプレートオイルを加えて印刷に適した硬さにします。なんだかお料理みたいですね。
ゴムべらを用いて凹面にインクをしっかり詰め、
寒冷紗という特殊な布で白くなる部分のインクを拭き取ります。次に紙で何回も拭き取ります。さらに人絹で拭き取って仕上げます。さいごにプレートマーク部分もウエスで拭き取ります。
ここまでの工程を経て、やっと…プレス機を使った刷りに入ります。プレス機の圧も事前に調整しておきます。紙を汚さないよう原版に重ねて、プレス!!!おお~っ。歓声が起こりました。
また、刷りの工程では銅版印刷に適した用紙「ハーネミューレ」に加えて、「雁皮紙」という透けるほど薄い和紙を使用し、印刷紙によって変化する趣も体感していただきました。黒インク、カラーインク、雁皮紙刷り、色々と挑戦した素敵な作品をご覧ください。
版の下準備と同様に、インクを詰める、刷るといった工程も、何度か繰り返しているうちにようやく感覚が掴めてきます。版画は複製技術のひとつですが、ひとつの作品が仕上がるまでの作業工程は決して容易でなく、むしろ繊細な感覚と熟練した技術が必要とされます。今回の講座では、こういったことを実際に体験していただき、さらに作品を見ることで、より銅版画の奥深さを実感していただけたのではないかと思います。