2011年05月03日(火) 美術品こぼれ話
NHK朝の連続テレビ小説で放映中の「おひさま」。物語の舞台となっている信州・安曇野の美しい風景が毎回、登場します。気高い北アルプス、清らかな湧水、のどかに広がる田畑、点在する道祖神。観光地として多くの人が訪れ、また風景画の画題としてもよく描かれる場所です。
ところで、安曇野がこのように注目されるようになったのは、実は比較的新しくて、戦後、小説やラジオドラマの舞台となってからのことです。そもそも「安曇野」という名前も、昔は「安曇平」(あずみでーら)というのが一般的でした。
現在開催中の「百花繚乱」展には、この「安曇平」の風景画が展示されています。茨木猪之吉《初夏の常念岳》(1935年・昭和10年制作)です。
茨木猪之吉は、あまり有名な画家ではありませんが、静岡県出身で、信州に移り住んで山岳画家となった人です。この作品は、現在、無数に描かれている安曇野風景画の原型のような絵です。
どのような場所や風景が、「名所」として画題になるのか。そこには、今も昔も、出版や放送などのマスメディアが、大きく影響します。「おひさま」もまたその一例なのかもしれません。
「百花繚乱」展では、《初夏の常念岳》以外にも当館所蔵の「名所絵」がたくさん展示されています。描かれたそれぞれの場所の歴史に思いをはせてみるのも、一興でしょう。展覧会は5月15日までです。