作れちゃう

10/6-7 創作週間SP イニシャルを「カトゥルーシュ」で飾ろう

実技室プログラムのご案内です。

10月6日と7日に創作週間スペシャル、イニシャルを「カトゥルーシュ」で飾ろうを実施しました。インストラクターは当館実技室のインストラクターで銅版画の、柳本一英氏です。
今回は、銅版画のエッチングの技法で、版を2つ作り、カラーインクを使って、下の写真のようにに多色刷りの作品を制作をしました。

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銅版画の作品を見ていて、装飾文字や、美しいフレームを見た覚えはありませんか?今回のテーマ「カトゥルーシュ」とは、もともと、古代エジプトの象形文字で「囲む」という意味を持ち、王様や身分の高い人の名前を囲うために用いられました。時代を経て、さまざまな装飾的な要素を取り入れながら、建築や室内装飾に用いられるようになり、銅版画の作品にも見られるようになりました。今回は、この「カトゥルーシュ」や、装飾文字に焦点を当てた講座になりました。それでは、どのようにして、作品が出来上がったか、当日の様子をご覧ください。

 

<1日目>

今回は、このように文字とフレームを分けて、2版多色刷りで作品をつくりました。

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講座の冒頭では、使う道具の説明と、エッチングの仕組みについての説明から始まりました。

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エッチングは、銅を腐食させる部分と、させない部分をつくることで、線を作り出す技法です。あらかじめ銅版に「グランド」と呼ばれる防食膜を張って置き、その被膜を引っかいたところが腐食されて、インクが入る溝ができるという仕組みです。下の写真のように、「ニードル」という鉛筆のような針で線をひきます。

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口頭で説明しても、なかなかイメージが沸きづらいところですので、デモンストレーションをしながら順を追って進行しました。

まずは、銅版の描写しない背面が腐食されないように、腐食止めシートを銅版の裏面に貼り込みます。

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そして、「グランド」と呼ばれる防食膜を張ります。張る、といいますが、グランドの液体を銅版に直接垂らして、画面全体に行きわたるように広げます。

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上手くいけば、表面張力で版からグランドがこぼれないのですが、版からグランドがこぼれてしまいそうになり、どうしても慌ててしまう場面です。皆さんにはとても慎重に作業していただき、大きな失敗無くグランド処理することができました。グランドが乾くまで少し時間がかかるので、その間に下絵の準備をしました。

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下絵作りでは、こちらで用意したフレームと文字を組み合わせたり、絵を付け足したりして自分の絵柄をつくりました。細かい絵柄と、シンプルなフレームがありましたが、細かい柄にチャレンジして下さった方が多くいらっしゃいました。

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次に、版と下絵の間にカーボン紙を挟んで版に転写します。

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とても細かいので、どうしても転写し忘れてしまう部分が出てきてしまいます。時々、版にちゃんと写ってるかな?とめくって確認します。

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これで絵柄が版に写りました。ここから、ニードルやエショップを使って、絵柄通りに引っかいていきます。

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白くキラッとしている箇所が引っかいた場所です。描写自体は、薄い膜を剥がすだけなので、ニードルに力は必要ありません。鉛筆で描く感覚とは異なるのですが、鉛筆と同じ感覚でニードルを握るので、つい力が入ってしまいます。RIMG6315

繊細な線を慎重にたどっていきます。とても細かいのですが、皆さん集中して制作されていて、静かな時間がしばらく続きます。

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お昼を挟んで、終わったかたから腐食に入ります。こちらのこげ茶色の液体が、塩化第二鉄という腐食液です。この中に、先ほど作った版を入れて、腐食が進むのを待ちます。

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そして腐食が終わったら、灯油とホワイトガソリンを使って、防食膜のグランドを落とします。あっという間に元の銅の色に戻ります。

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落としたあとがこちらです。引っかいた線が、溝になっています。指でなぞると、なんとなく凹凸ができているのを感じられる程度の、浅い溝です。この溝にインクを詰めて、プレス機で圧をかけて刷っていきます。さっそく刷りたいところですが、刷りには充分な時間が必要なので、明日のお楽しみ、ということで、刷りに向けて紙を湿してからお帰りいただきました。刷る紙を湿らしておくことで、インクののりを良くすることができます。

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印刷には、ハーネミューレというコットンパルプ100パーセントの、厚みのある洋紙を使用しました。そのまま紙を水に沈めて、紙が水を吸うのをしばらく待ちます。「刷る前に濡らすと、なんだか悪そうな気がするのだけど…」という声がたまにありますが、とても丈夫な紙なので、濡れて破れてしまうこともありません。思い切って水に沈めて、しばらく水を吸うのを待ちます。

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そのあと窓に貼りつけて、水を切ります。

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さらに、スポンジで水分を調整した後に、ビニールに包み、重石をかけて、このまま明日まで置いておきます。

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これで1日目が終了です。どれもとても細かい絵柄でしたが、みなさん腐食の段階まで終えることができました。明日はついに刷りに入ります。多色刷りですので、配色が肝です。準備されたカラーインクを見て、想像をふくらませながら帰路につきました。

 

<2日目>

さあ刷るぞ!と言いたいところですが、刷りに入る前に、「プレートマーク」という版の縁についた斜めの部分を仕上げます。このプレートマークをつけることで、刷る際にプレス機のフェルトや紙が痛むのを防ぎます。今回はもともとスタッフの手でプレートマークを削っていたのですが、荒削りだったので、ここでキレイに仕上げていただきました。

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ようやく刷りの段階に入ります。最初に柳本さんのデモンストレーションを見て、インク入れるところから、プレス機にかける流れを確認しました。

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まずはインクをつめて、

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?余分なインクを寒冷紗で拭き取り、薄い紙でさらに拭き取ります。これで刷る前の準備ができました。2版ともこの工程を行います。

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プレス機を使って、刷っていきます。今回は2版ですので、2つの版がぴったり重なるように刷ります。下の写真は1版目が刷り終わり、2版目を刷るところです。

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こんなふうに刷ることができました。版を洗浄すれば、色を変えることができるので、色の組み合わせを試していきます。今回は8色のカラーインクをご用意しました。色見本はとても濃く出ていますが、刷るとまた違った具合になります。多色刷りで、色が重なる部分もあるので、色のがどのように作用するか試しながら刷っていきます。

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皆さん休憩も無しに、皆さん黙々と刷り続けてくださり、あっという間に3時になりました。1人5枚刷って、ひとまず終了です。5枚というと、一見少ないように思えますが、インクをつめる行程を5回繰り返すには、意外と体力を使います…。

最後に皆で鑑賞会&感想会をしました。感想をうかがってみると、ほとんどの方が、銅版画は未経験だったようです。特に失敗が無く、それぞれ作品として形にすることができました。どのような作品が出来上がったか、一部をご覧ください。

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作品のなかには、元々のフレームにオリジナルの絵柄を入れる方もいらっしゃいました。同じ絵柄でも、色を組み合わせて刷ると、また違った印象になりますね。今回作った版は、保管しておけばまた刷ることができますし、加筆することもできます。今回は短時間の制作でしたが、これからまた創作週間等で自主制作していただけると、どんどん作品作りの面白さを感じていただけると思います。当館収蔵品の銅版画の作品のなかには、エッチングの技法で制作された作品が多数あります。遠い昔に作られた作品ですが、技法を体験することで、作者の視点に添うような形でも鑑賞していただけるようになると思います。

次回の創作週間スペシャルは、シルクスクリーンです。
2月10日・11日に実施を予定しており、1月の上旬から参加者募集を開始する予定です。お楽しみに!