作れちゃう

8/9‐10 夏休み子どもワークショップPart1「きらきらえのぐでモダンアート」

静岡県立美術館では、小学生を対象に「夏休み子どもワークショップ」を毎年実施しています。小学生の場合、学校の団体観覧などを除いては、美術館に訪れる機会が決して多くないというのが現状です。このワークショップでは、時間を贅沢に使える夏休みを利用し、普段はなかなか接することの出来ない、アーティストや美術作品と親しむ機会を作り出すことを目的としています。

今年は、8/9日~12日までの4日間を2日間ずつのパートに分け、Part1「きらきらえのぐでモダンアート」(講師:現代美術家・大庭大介氏)と、Part2「銅版画 ほめられたこと おこられたこと」(講師:版画家・重野克明氏)を実施しました。講師にお招きしたおふたりは、今年の4月に行われた「新収蔵品展」出品作家です。講師を担当していただくにあたり、ご自身の活動と、美術館で行われている展覧会の内容との両方を考慮した上で、ワークショップを考案していただきました。

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それでは、8/9日、10日に実施された、Part1「きらきらえのぐでモダンアート」の様子からご紹介いたします。Part1の講師を務めて下さったのは、現代美術家の大庭大介さんです。このワークショップでは、参加者の子ども1人につき1作品、40×40㎝の正方形キャンバスに、大庭さんが制作で使用しているのと同じ「偏光パール絵の具」を用いて、モダンアートに挑戦してもらいました。

【1日目/午前】

はじめに、大庭さんの自己&作品紹介がありました。大庭さんの作品には、偏光パールという特殊な絵の具が用いられています。一見すると真っ白に見える画面が、光の角度や、鑑賞者の立ち位置の変化で白蝶貝のように七色に輝き、画像が浮かび上がります。制作の仕方も独特で、プロジェクターで画像を投影しながら描いたり、絵の具を削ってみたり…。ベイブレードを使って描いた作品が紹介された時は、男の子たちが一気に盛り上がりました。みんな、はじめて目にする不思議な作品、作り方の数々に目を見張っていました。

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つぎに、現在開催中の展覧会「美術館に行こう!ディックブルーナに学ぶモダン・アートの楽しみ方」を鑑賞しました。モダンアートとひとくくりに言っても、作品は多種多様です。描き方が面白いもの、素材に特徴があるもの…、今回の参加者は小学校の低学年が中心ということもあり、難しく説明せず、直感で受け取った感覚を大切にしてもらいたいと思いました。この後の制作につながるようなインスピレーションが得られたかな…?

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【1日目/午後】

午後は、キラキラえのぐ作りからスタートしました。今回使用するのは、全部で5色です。赤、青、黄、緑、白、ふつうの絵の具ですと一目了然ですが、偏光パール絵の具は、全部、白い絵の具に見えます…。偏光パール+ジェルメディウム+水を決められた分量で正確に計って混ぜていきます。絵の具をチューブから出すだけじゃないんですね。最適な状態で使うためのこだわりがあるんです。子どもたち、自分が何のためにそれをしているのか分かっているかが疑問ですが、絵の具を絞るとか、ぐるぐる混ぜるとか、こういった作業が大好きです。

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キラキラえのぐが出来たら、机に敷いたシートの上に絵の具を垂らして、マチエール(絵の表面の質感)作りを開始します。このシートは「クッツカーネ」(商品名)という特殊なシートで、絵の具が乾いた後もシートにくっつかず、シールのように絵の具を剥がすことが出来ます。この特性を利用して、キラキラえのぐで色々なマチエールを作って、乾いた後にそれらを切って、キャンバスに貼って、コラージュで作品を作ってみようというわけです。

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えのぐを細く垂らす、櫛で引っ掻く、ストローで表面に気泡をつくる、スキージーで3色いっぺんに薄く延ばす…身近な道具を使って、次々と新しいマチエールが生まれていきました。すぐに自分の机いっぱいに絵の具が広がっていく子と、考え込んで一向に進まない子がいます。何かをお手本に「上手な絵」を描こうとしているわけではないから、それで当然です。素材も作品も即興で、ひとりひとりが考えるペースで出来上がっていきます。みんなの机が絵の具でいっぱいになったところで、1日目が終了しました。

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【2日目/午前】

朝、実技室に来ると、昨日の絵の具がほとんど固まり、簡単にペらっと剥がすことが出来ました。剥がす前に室内の灯りを消して、窓から射しこむ自然光で絵の具を観察しました。乾いた後の方が色の違いがはっきりして、光を受けた絵の具がキラキラと輝き、とても綺麗でした。

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ここからがいよいよ本番です。自分が作ったキラキラ絵の具を材料にして、40×40㎝のキャンバスにコラージュをしていきます。素材作りの段階から完成図をイメージ出来ていた子もいれば、本能の赴くままに素材を作っていた子もいます。なんにせよ、ひとつの作品として仕上げなければなりません。

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時々様子を尋ねると、小学1、2年生の子は、ここは山で、こっちは海、これはお花で、これオタマジャクシ…のように、かたちから連想した素材と素材を繋ぎ合わせて、画面に物語を作っているようでした。

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高学年の男子たち、恥ずかしがって見せてくれません…。でも真剣に作品と向きあっていました。何にも考えず、マチエールの変化を重ねてみる、という方が、むしろモダンアートな感じもします。

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【2日目/午後】

午前中から制作を開始し、お昼休憩をはさんで4時間も集中して作品を仕上げました。3時には保護者の方も実技室内に迎えて、作品発表会を行いました。展示パネルを、光の差し込む方向と向かい合わせになるように設置すると、みんなの作品が虹色に輝きました。子どもたちやスタッフ、親御さんたちからも「わぁ」と歓声が上がりました。

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発表会では、1人ずつ前に出て、自分の作品についてお話しました。アーティストトークデビューです。大庭さんの「これは何?」「どんなことを工夫しましたか?」の質問に、みんな照れちゃってタジタジでした…。休憩中はあんなにおしゃべりして、元気いっぱいだったのに~(笑)。

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2日間たっぷり、モダンアートを堪能し、制作にも没頭出来たのではないでしょうか。ちゃんとカタチになって、本当に立派な作品が完成しました。最後に大庭さんから「この作品はきっといつか宝物になるから大事にしてね」とメッセージがありました。作品とともに、美術館で過ごした時間、アーティストさんと過ごした時間も、大切な思い出にして下さいね。