2019年01月24日(木) 美術館の独り言
実技室プログラムのお知らせです。12月8日・9日の2日間で、現在開催中の「めがねと旅する美術展」出品作家の、山田純嗣さんをお招きして、2日間の講座を実施しました。山田さんは美術史上の名画を立体化し、それを撮影したものの上からさらに描写を重ねるという、独自の技法で制作をされています。
今回の講座では、山田さんの作品プロセスの一部に倣って制作しました。ワークショップでは、メガネやカメラに相当する手作りの装置を覗きながら、当館所蔵の伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》の右隻をジオラマとして再現しました。装置から立体化された作品を覗いてみると、どうなるのでしょうか?当日の様子をご覧ください。
<1日目>
まずは山田さんご自身の作品についてのご紹介と、今回作るメガネやカメラに相当する装置についての説明がありました。山田さんの目の前に置かれている木箱が、その装置です。装置は木製の箱で、のぞき穴が付いています。まずは一人一つの箱を作るために、板をグルーガンで接着させて組み立てる作業から始まりました。
次に、樹花鳥獣図屏風をプラスチック板にトレースします。このプラスチック板が、動物を配置するときに重要な目印の役目になります。
そして、背景用に竹ひごを2本通します。最後にこの竹ひごから、背景の植物や動物を吊るします。さらに地面になる底面を、樹花鳥獣図屏風の見本を見ながら塗っていきます。本物を一見すると緑のベタ塗りに見えますが、茂みの線など、微妙な表情をつけて塗っていきます。
地面が完成です。地面と草の絶妙な色合いが表現されています。
お昼を挟んで、いよいよレジンで動物たちを型取りします。こちらの山田さん作成のシリコン型を使用します。レジンを流し込む前に、離型剤を塗ります。
レジンは2種類の液の反応で固まります。あらかじめ、それぞれ同じ分量を量っておき、一気に混ぜて、シリコン型に流し込みます。すぐに硬化が始まるので、手早く作業します。
このまま10分程度固まるまで待ちます。型は4種類あるので、この工程を4回繰り返します。
こちらが方から外した状態です。これからパーツごとに外して、ヤスリやカッターを使って、形を整えていきます。
とても細かい部品の数々!これほど沢山の動物が屏風の中に居たことに驚きます。作られたパーツと、屏風を照らし合わせて、パーツがそろっているか確認します。
レジンの気泡が入って、穴があいた場所は、パテで埋めて、一晩置いてからヤスリで削ります。ここで一日目が終了です。
<2日目>
昨日に引き続き、レジンで作った動物の形を整えます。昨日パテで埋めた部分もヤスリで整えます。細かい凹凸がありますので、削り落とさないように慎重に進めていきます。
このように、小さいパーツを作業しやすいように工夫されている方もいらっしゃいました。
ときどき箱の中に入れてみて、完成を想像しつつ、一休憩…。
形成が完了次第、着彩に移ります。動物の種類は沢山ありますが、それぞれ共通した色が用いられている箇所があります。山田さんが、それぞれのベースの色とアクセントの色を書きだしてくださったので、これをヒントにして塗っていきます。それぞれの立体に共通する色を一気に塗って、上に重ねて着彩するのがポイントです。
よく見ると、動物たちには、さまざまな模様があります。はたして、どこまで再現できるのでしょうか…
一つ一つの動物が形になると、この動物はどこを向いているのか等、表情が気になってきて、つい動物同士のストーリーを考えてしまいます。
最後に、動物を固定して、手前と奥の植物を設置したらついに完成です。
上から見ると、このような配置になりました。
意外と動物同士に距離があり、少しバラついて置かれているように見えるのですが、穴からのぞいてみると・・・
樹花鳥獣図屏風の世界になっています!のぞき穴という限られた視点から見ると、私たちのよく知っている樹花鳥獣図屏風の絵になっています。なんだか不思議な気持ち…。
今回のワークショップでは、お馴染みの《樹花鳥獣図屏風》をテーマにしましたが、平面の作品を立体化することで、空間という新しい視点が加わり、動物たちの配置を考えたり、一つ一つ見ていくことで、新たな発見をすることができました。これから他の作品を鑑賞するときに、誰の視点から、どのように見たのか考えたり、描かれているモチーフから見た視点など、平面と立体を往来するように鑑賞すると、作品の見方が広がりそうですね。