2017年08月04日(金) 作れちゃう
実技室プログラムのご案内です。
7月29日(土)、30日(日)の2日間にかけて、実技講座の銅版画編、「名画を模写する」を開催しました。今回の講座では、収蔵品展に出品されていたジャック・カロ作《ボヘミアン》という銅版画の作品を、エッチングという技法を用いて模写をしました。
今回は実物をそのまま模写するのではなく、拡大した全体図から気に入った部分だけ模写しました。
カロの描写を追って、一体どんな作品が出来上がったのか、2日間の様子をご覧ください。
<1日目>
講座の先生は、創作週間でインストラクターをしていただいている、版画家の柳本一英さんです。
普段お使いになっている様々な道具をお持ちいただきました。
今回みなさんには、ニードルという針のように尖った道具を使って描写していただきましたが、このように他にも沢山の道具があり、それぞれの描写に合わせて使い分けます。
今回の講座では、銅版画を初めて体験する方が大多数だったので、まずは「銅版画とは?」というお話しから始まり、20分程度で描写から刷りまで一通りのデモンストレーションを行いました。初めてのプレス機、「おぉ~」という歓声が上がります。
何となく仕組みを分かっていただいたところで、柳本先生と展示室へ向かいました。
作品を模写する前に、まずは作品について知識や思いを深めます。
収蔵品展の銅版画コーナーを担当した南学芸員の解説を聞きながら、ジャック・カロの作品を中心にじっくり鑑賞しました。
今回模写したジャック・カロ作の《ボヘミアン》は、4枚からなる作品で、当時のジプシーたちの生活が描かれています。画面の中にありとあらゆるものが緻密に表現されており、小さい画面ながら迫力があります。スタッフも本講座の準備で作品を何度も見ていたつもりでしたが、解説を聞きながら新たな発見がいくつもありました。
肉眼だと見難いほどの細密な部分があるので、ルーペ等を使ってカロの筆致を追います。美しいハッチングや、遠近感の出し方、影の付け方をよく観察します。鑑賞しながら、模写をする部分を考えますが、たとえば木1本にしても、「こんなに描き込まれているのね…」と思わずため息をついてしまうほど…。
ちょっとした疑問を南学芸員や柳本先生にうかがいながら、あっという間に鑑賞タイムが終わりました。
銅版画を見る時、描かれている主題に目が行きがちですが、こうして技法に着目しながら筆致を追うと、何となく作家の人柄や当時の様子を生々しく感じられるような気がします。南学芸員のお話にあった歴史的背景も踏まえつつ、当時の様子を想像しながら鑑賞しました。
描写する部分を考えつつ、一旦お昼をはさんで休憩しました。
午後からグランドという防食膜を銅板の上にひく作業から開始です。
グランドを乾かす必要があるので、待ち時間の間に下絵作りをします。今回、遠近感を出すために手前の太い線を赤い線、奥や細かい描写を青い線で分けて下絵を作りました。
下絵が完成したら、乾いたグランドに転写をして、ニードルで描画を始めます。
<2日目>
ニードルで続きの描画をするところから開始です。
防食膜をはがしたところが腐食され、線になるのですが、慣れない道具につい力が入ってしまいます。この「膜をはがす」という感覚が難しいのです。
力が入ってしまうと線がガタついてしまうので、なるべくスッと線をひくように心がけます。
描画し終えたら、腐食をします。
この塩化第二鉄液という液体に浸すことで腐食されます。この腐食をする時間によって線の太さが変わります。表したい線によって腐食時間を変える必要があるので、柳本先生と相談しながら最短で1分、最長で20分の腐食をさせました。
腐食し終えたらインクをつめる工程に移ります。写真の様にウォーマーという温かい箱の上で版を温めながらインクをのせると、細い溝にもインクをなじませることができます。
そして、寒冷紗という荒目の布で版を擦って、腐食で出来た溝にインクを入れ込みます。
この後、余分なインクをふき取るのですが、拭き取りすぎても白くなってしまうので、この拭き取り加減に悩みます。プリンターという職人がいるほど難しい工程です。
準備が整ったら、いざテスト刷りへ!緊張の瞬間です。
このように今回の講座では、【 描画 → 腐食 → 印刷 】の工程を繰り返して、版の描写を充実させていきます。
この工程を1人およそ3~4回、多い人は5回行いました。多種類の薬品を工程ごとに使う複雑さがありますが、最後の方は皆さん一人でスムーズに作業されていました。
1回目に刷ったものとカロの作品を見比べながら、足りない部分を描き足します。拡大してもなお繊細な描写が多く、「やっぱりカロってすごいんだな…」という声がちらほら聞こえました。皆さん、カロに負けじとお昼休憩に展示室に戻って観察し直し、制作を続行させるほど熱心に取り組まれていました。
左から1回目、2回目になっています。このように並べてみると描写の実具合が分かりますね。
最後の方は、繊細な付け足しが多かったので、腐食時間を柳本先生と相談しながら決めました。
この刷りも神経を使いながらやる作業なので、4回目、5回目になると疲労がうかがえました。
刷り上がったら、最後はみんなで鑑賞会です。お一人ずつ感想を述べ、先生からも一言いただきました。
参加者の皆さんからは、「難しかったけど楽しかった」という声が多く寄せられました。
技術を要する工程が多くあったものの、それぞれの味のある作品が仕上がりました!
それでは仕上がった作品の一部をご紹介します。
皆さん細い線と太い線がしっかり描き分けられているので、メリハリがあって雰囲気が出ていますね!
スタッフが試作した時は太い線を出すのに苦労しましたが、これほど太い線や黒がしっかり出ると、何度も腐食の工程を繰り返した甲斐があったと思います。何度も同じ工程を繰り返すことは特に初心者の方にはまさに修行だったと思われますが、きっとエッチングの醍醐味を味わっていただけたのではないでしょうか。今後は技法を体験したからこそ分かる視点で鑑賞を楽しんでいただけたらと思います。