2016年03月04日(金) 作れちゃう
2/27・28に、現在開催中の「ウィーン美術史美術館展-風景画の誕生-」関連講座、「切って貼って描いてつくる 草薙神話の風景」が行われました。2日間にわたる制作の工程をご紹介いたします。
本展覧会では、風景画誕生期の作品が多く見られます。例えば、聖書や神話の物語の中に描かれた風景がそれにあたります。今回の講座ではその点に着目し、当館の身近に伝わる、ヤマトタケルの草薙神話を題材に、一人一枚、「草薙神話の風景」を創作していただきました。
1日目、先ずは展示室へ鑑賞に向かい、展覧会を担当している学芸員から、神話や聖書の物語に描かれた風景についてレクチャーを受けました。≪アストライアーの再来≫には、人間と神様が共存していたと考えられていた頃の風景が描かれています。本当にそうだったのかもしれないと思ってしまうような、神秘的な光景です。
講師には、炭田紗季氏(現代美術家)をお迎えしました。炭田さんの作品は、富士山や七福神といった日本人にとって馴染みの深いモチーフに、現代的な人物や風景を組み合わせたシュールな作風が特徴的です。炭田さんの指導のもと、皆さんの草薙神話の風景がどのように展開するのか、私たちスタッフも興味津々でした。
炭田紗季≪えびす様と大黒様≫2014 91.0×72.7cm oil on canvas
つぎに、草薙神話について、ヤマトタケルの人物像や草薙の地との関係性の解説をした後、実際に伝わっている物語を、参加者とスタッフ全員で読み合わせをしました。物語としては、東国平定で駿河の国に差し掛かったヤマトタケルが、逆賊の火責めに逢い、その際、ヤマトヒメから旅の護身用に渡されていた火打石と剣(草薙の剣)で立ち向かい、逆賊を制したというシンプルな内容です。声に出して読んでみると、人物や風景のイメージが広がりました。
制作に入る前に、炭田さんの作品制作工程を、特別に公開していただきました。今回の講座では、炭田さんの作画の手法を取り入れ、コラージュで画面構成をした後、アクリルガッシュやパステルなど色々な画材を使って、着彩、描画を施しました。たしかに、一から絵を描くのは難しいですが、コラージュを用いれば、自分のイメージを簡単にかたちにできますね。
鑑賞、神話の読解、制作工程のレクチャーを受けて、いよいよ制作開始!どこのシーンの風景を描くのか、場面設定がとても大事です。皆さん、もういちど資料を読んで、つくりたい風景のイメージをふくらませています…
描きたい風景が決まったら、コラージュの材料集めをします。不要になったポスターやチラシ、雑誌から、自分のイメージにぴったりな画像を探し出し、切って貼って紙の上であちこち動かして、いちばんかっこよく決まる構図を見つけ出します。
2日目は、コラージュの画面構成~着彩、描画へと工程を進めます。雑誌から切り抜いた人物、山や空や雲といったパーツと、自分が新たに手を加えた色や線が重なり、見たこともない風景が出来上がっていきます。
時間内に、参加者全員の作品が仕上がりました!最後に作品発表会を開き、それぞれ、どの場面を描いたのかをお話しいただきました。作品の一部をご紹介します。
?燃え盛る炎の野原に佇む、ヤマトタケルの一行が描かれています。文字が書かれたポスターを、背景に上手く利用して、なんだかドラマティックな雰囲気です。
?タイムトンネルを通って、現代の草薙の地に姿を現したヤマトタケルを描いたとのこと…!すごい想像力です。
?当館所蔵作品の切り抜きが、どーんと用いられています。ヤマトタケルが、駿河の国の旅の途中、富士山の見える宿でうたた寝をした、というシーンを描いているそうです。幸せそうな寝顔がなんとも言えません。
?今まさにヤマトタケルが草薙の剣を抜いて逆賊に反撃をしかける、といったところでしょうか。背景もリアルでカッコイイです。
?ヤマトタケルが女性に置き換えられています。各地に妻を残し、旅にもオトタチバナヒメを連れ立ったヤマトタケル。彼を支える力を象徴的に表したかったそうです。深い!
?草薙の地で炎に立ち向かうヤマトタケルと、彼を助ける風。風は人物の髪によって表現されています。真ん中に置かれた格子が窓のような役割を果たしているのも面白いですね。色々な次元を超越しています。
他の方々の作品も、それぞれの個性が光り、とてもユニークでした。A3大のイラストボードを2日間で仕上げるのは、実際には大変なことだと思いますが、コラージュという技法を用いて、想像以上に完成度の高い作品に仕上がりました。今回の講座では、神話の風景を描くということに目的がありました。神話をテーマに物語画を描くのではなく、物語を理解したうえで風景との関わりをどのように見せるかが腕の見せどころでした。見て、読んで、切って、貼って、描いて…試行錯誤の中から、たくさんの素晴らしい作品が生まれました!