2018年01月23日(火) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。
12月23日・24日の2日間にわたって「X’マスだよ!パープルーム予備校の体験入学会」が開催されました。
今回のワークショップでは、現在開催中の企画展「アートのなぞなぞ―高橋コレクション展」の関連イベントとして、出展作家の梅津庸一さんを講師に、同氏が創設したパープルーム予備校の生徒、あんどーさん、智輝さんを助手にお招きしました。広報の時点から、お問合せをいただくことが多かったのですが、チラシには梅津さんによるワークショップの概要として、このような文章を掲載しました。
「絵画、お絵描き、スケッチ、ドローイング、落書き、、、『絵を描く』と言ってもいろいろな水準で区切られているのが現状です。果たして、わたしたちが生み出す「絵」とはいったいなにを指すのでしょうか。そして「絵」とは画材で描かれたものだけなのでしょうか?実際にいろいろな絵を描きながらその辺のことについて考えてみませんか?さあ、あなたもパープルーム予備校生になって一緒に絵を描きましょう!(梅津庸一)」
そもそも「予備校」とは?ですが、これは美術大学進学を目指して受験生が通う、美術予備校を指しています。一般的に美術大学の入試には、学科試験だけでなく実技試験もあります。美術予備校は、主にこの実技試験対策をサポートしてくれる学校です。しかし、「パープルーム予備校」は、美術系の私塾としていながらも、美大進学を目標としていません。アーティストを目指す者が集まる共同体として、美術運動を兼ねた活動をしています。今回のワークショップは、パープルーム予備校生として1日体験入学をし、一緒に絵を描くものでした。
参加者は、普段から作品制作をしている方や、美術系の学校を卒業されている方、美術系に進学を考えている学生など、美術に普段から親しみのある方々が多かったようです。今回はほとんどの参加者が「パープルーム」を予習していない状態で参加されていたようでしたが、終了後にしばらく経ってからも参加者の方々に感想をいただくほど、皆さんにとって刺激になったようです。スタッフも、今日まで余韻が残っています。一体どのような内容になったのでしょうか?2日間の様子を合わせてご覧いただきたいと思います。
会場内はポスターやフラッグなど、梅津さんと予備校生による飾り付けがされています。クリスマスということで、会場の中央にはツリーを設置して、音楽(梅津さんのお好きなSHAZNA)も流して、賑やかな雰囲気になりました。
冒頭では、梅津さんの美術館のワークショップや美術教育への思いや疑問についてのお話から始まりました。「今日のワークショップでは、絵を描く難しさを共有できれば、このワークショップは成功したことになる」とのお言葉に、この時点では「絵を描く難しさとは一体…?」とはっきりと浮かびませんが、皆で同じものを作るようなワークショップにはならない、ということが伝わってきます。そして、パープルーム予備校に至る経緯、現代における絵画の位置付けのお話しがあり、絵を描く準備にとりかかりました。
画材もテーマも指定はありません。「さて、一体何を描いたら良いのだろうか…」と戸惑いながら、とりあえず、筆を走らせます。
こちらは、予備校生のあんどーさんです。予備校生の方々も、参加者と一緒に絵を描きます。2日目には、もう一人予備校生のちはるさんが加わりました。
最初は戸惑いながら描き出しましたが、制作は想像以上に早く進みました。ここで梅津さんより、「ただ手を動かして描くのでは図工になってしまうので、知性を使って描きましょう」と声がかかり、参加者に「これは単なる絵を描くワークショップではないのだ…」という認識が広がります。続けて、梅津さんの「自己模倣に陥らないために、他の参加者の作品を見てはどうか?」との提案に、他の人がどのような作品を作っているか見てまわりながら、参加者同士で今の気持ちを共有しているようでした。
梅津さんは、時々室内を巡回して、参加者に助言していきます。通じる箇所がある作品や作家を挙げたりするシーンも多々ありました。無意識に影響を受けていたり、偶然似通った場合にしても、自分と似た方向性を持っている人を知ることは、進め方の参考になります。しばしば厳しいコメントもされますが、ここは「体験入学」、愛の鞭です。会場内の緊張感が時間を追うごとに増し、「絵を描く難しさ」を実感していきます。
助手として参加をしているパープルーム予備校生にも、同じように助言していきます。時には画集を手に、こうしてみたらと具体的なアドバイスをされていて、手厚い指導を個人的に羨ましく思いました。
途中で鑑賞教育の研究をされている参加者の方と、美術作品の鑑賞方法について議論が交わされるシーンもありました。
お昼をはさみ、苦戦しながら制作をつづけ、どうにか形が見えてきたところで、15時頃より、ツアー形式で作品の鑑賞会を行いました。基本的に、作品について作者が説明したあとで、梅津さんを中心にパープルームの方々がコメントしていくというスタイルですが、時折参加者やスタッフまでも巻き込んで会が進行しました。
出来上がった作品は、普段から描いている絵の続きや、「アートのなぞなぞ展」から着想したもの、画材の実験、日常生活を切り取ったものなど、各々違った方法で進められていました。普段から制作されている方は、いつもと違った趣向になったようです。
写真で見ると、和やかな雰囲気ですが、梅津さんが率直に作品の問題点を追及していき、会場内の緊張感はクライマックスを迎えました。単に絵を描くだけでは、絵が成立しないということを改めて実感します。ただ、参加者の方々に後日お話をうかがったところ、この時に梅津さんに率直に意見を言っていただけて、スッキリした方が多かったようです。1日目は特に参加人数が多かったため、2時間近い鑑賞会となりました。(個々の作品の講評の詳細はパープルームのTogetterまとめをご覧ください。)
続いて、予備校生あんどーさん作のパープルームの日常を描いたアニメーションを鑑賞しました。
最後に、梅津さんが「このワークショップに来て良かったと思っている人はいないと思う」と仰っていました。実は数名の参加者が、途中で帰宅されました。(憤ったご様子ではなく、どちらかというと困惑されたようでした)今回のワークショップでは、きっと全員が作品を生む難しさや、苦しさに直面したはずです。さらに、今まで信じていたことが揺さぶられたり、見ないようにしていた事に直面したりするようなショックを受けたと推察します。
参加者の方々は、どのように受け取ったのでしょうか?終了直後のアンケートのコメントを掲載します。(原文ママ)
・美術作品の見方は、むずかしい。と改めて感じました。自己満足でなく、客観的に見てみないとダメですね。
・苦しい時間をありがとうございました。
・分かりやすい部分もありつつ、全くつかめない所もありました。ストレスがたまったけど、決して悪いストレスだけではなかった気がします。
・ぶつかり合いは必要だし勉強しなければならないと警鐘を鳴らされたように感じました。
・難しい内容だった。画力の無い自分にとって「何でも良い!」これが一番つらい事でした。それでも楽しませていただきました。
・結構疲れました。絵を描きにきただけだったのにーという感じの不意打ちをくらった感じです。とても刺激的でした。
・賢くなりたいなあと思いました!梅津さんがニコニコといろんな人につっ込んでいくところが面白かったです。
・いつもの自分の作品作りの姿勢について考え直すきっかけとなるようなお話をいただき、とても刺激になりました。ありがとうございました。
・現役の作家さんから美術や制作への考え方を直接聞くことができる、とてもぜいたくな予備校だと思いました。今日のことを自分なりに解釈し、今後の研究に生かしていこうと決意を改めた次第です。大変刺激になりました。ありがとうございました。
・たくさん話が伺えて楽しかったです。現代アートには興味あるけど、言語化できる作家が少ないので、具体的なことばにうれしい思い出が出来ました。感謝です。
・さすがでした。すべて肯定とは言えませんでしたが、論理的でした。
・割と自分勝手な判断の行動があり申し訳ありませんでした。プロアーティストとしてもっと質の完成度共に、高めていきたいです。今日は自分が何を視点として制作すべきか、少しだけ確認できました。
後日、「純粋にアートについて考えられる良い時間だった」「芸術家になる難しさを感じた」という感想を寄せてくださる方もいらっしゃいました。今回参加していただいたことで、自分にとっての「絵を描くこと」「美術」または「作家」について、深く考える機会になったのではないでしょうか。参加者の方々の目的は多様ですが、今回の内容と参加者の方々の反応を受けて、スタッフも今後のプログラムについて、改めて考える機会となりました。