10月さいごの日曜日に、小・中学生を対象としたワークショップ、わくわくアトリエ「色をあつめて、光のカーテンをつくろう!」が実施されました。このワークショップは、現在、静岡市内4か所(静岡県立美術館・静岡市美術館・中勘助文学記念館・東静岡アート&スポーツ/ヒロバ)で開催中の「めぐるりアート静岡」(10/23~11/11)とのコラボレーション企画で、当館の展示を担当されている鈴木諒一さんを講師にお招きしました。どんなワークショップがおこなわれたのか、当日の様子をご紹介します。
はじめに、鈴木さんの自己紹介と作品紹介がありました。鈴木さんは、写真を主な手法として作品を発表されています。写真は、光の現象を留めることができる代表的な道具といえますが、今回のワークショップでは、カメラなどを用いずに色や光をとらえ、遊びながらその存在を自然に意識してもらえるようにと考案されました。
午前中は、透明の板と油性マジックを持って、色あつめに出かけました。下の写真は、鈴木さんが色のあつめ方を子どもたちに説明しているところです。透明の板越しに、参加者の子の服の色を写し取っています。トレーシングペーパーなどを使ってイラストを写すのとは違い、現実の世界の色を写し取りますので、対象は無限に存在します。鈴木さんから「これはすごく難しい作業だけど、何を写してもいいし、上手くかたちを取らなくてもいい、あきたら途中でやめて他の色を写してもいいよ」という言葉を受けて、子どもたちはざわざわ…好奇心の高まりが感じられました。
早速、美術館の中や外などへ、個々で色あつめにでかけました。「色あつめ」なんて学校では習わないでしょうから、子どもたちがどんな風に反応するだろうと思っていましたが、はじまるとすぐに方々へ散って、あちこちを移動しながら、たくさんの色をあつめていました。
下の写真の子は、遠くの山や木々を写している様子でした。ひとつだけ赤くなっているところは、紅葉した木々でしょうか。しばらくの間、ずっとこの場所に留まって描いていたのが印象的でした。
いつもなら目が届かないような塀の上に色を見つけた子もいました。お母さんも透明の板を持って協力してくれました。
色はどこにあるかな…と探していると、見過ごしてしまうような小さなお花にも気が付くようで、どんどん、色をあつめに熱中していく様子が見てとれました。
時々差し込む太陽の光に気をつけながら、寝転がって空の色をあつめている子もいました。
つぎに、あつめた色を持ち寄り、実技室でプロジェクターの光に当てて鑑賞しました。暗い部屋で透明の板に光を当てると、油性マジックで色を塗った部分がスクリーンに投影されました。
鈴木さんが、子供たちに「何を見て色をあつめてきたの?」と問いかけると、次々と、写した色について教えてくれました。
色をあつめた透明の板をプロジェクターに接近させると、投影される光の見え方が変化しました。子どもたちは、板を近づけたり遠ざけたりと、感覚的に実験をしながら、板に着彩されたものと、そこに光を透過させることで現れる現象のちがいを楽しんでいる様子でした。
板の角度を変えたりしていると、時おり、思わぬ場所にも光が現れました。下の写真は、実技室の天井です。オーロラのようにゆらめいて、とても綺麗でした。
午後は光を透過する柔らかい白い布に、セロファンやインクで色を施し「光のカーテン」をつくりました。布にセロファンを貼りつけて光をあてると、透明の板と同じように、セロファンの色を他の場所に写すことができます。布に赤青黄のインクで描くと、とても綺麗に発色しますが、光をあてても色を投影することはできません。ライトの光と自然光、どちらの光でも楽しむことができる、素敵なカーテンづくりが始まりました。
何も描かれていない布が実技室にたくさん吊るされ、なんだか不思議な空間になりました。鈴木さんの意向で今回は、あえて机を使わずに、カーテンとともにゆらゆらと揺れつつ、布の表と裏を行き来しながら制作してもらいました。
子どもたちにとっては、自分の背丈ほどもあるような大きな布ですが、みるみるうちに、カラフルに彩られていきました。
セロファンをくしゃくしゃにして、面白いかたちにカットしてみたり…光を当てたら、どんなふうに見えるでしょうか。
カーテンの裏側から見ると、自分の描いたものや、色の重なりが、少し違ったふうにも見えてきます。
ジャクソン・ポロックのように、インクを布に飛ばしながら描いている子もいました。青いセロファンのアクセントも素敵です。
布の一部分を縛って絞り染めのようにしてみたり、みんな次々と、思いついたアイデアを実験している様子が見て取れました。
カーテンが出来上がったところで、もう一度外に遊びに行きました。柔らかい布を手にした子どもたちは、なぜだかくるまれたくなるようで、被ったり、まとったり…小さな王子さまやお姫さまがたくさん出現しました。
午後の優しい光の中でふわりとカーテンを広げると、セロファンがきらきらと輝いて素敵でした。風を受けた布の様子や布越しの景色、子どもたちにはどんな風に見えていたのでしょうか。
みんなが外で遊んでいる間に、スタッフが実技室を暗室にして光源をセットしました。明るい外の光から突然の暗がりに、子どもたちのテンションも一層高まりました。
部屋は暗くしたまま、プロジェクターの光に当てたり、懐中電灯やランタンの光に布をかぶせたりしながら布の表情を楽しみました。壁や天井に不思議な光がたくさん現れ、太陽光のもとで遊んだ時とは違う、幻想的な色と光の世界が広がりました。
誰かが、布に下から光を当てて見ると面白いことを発見すると、みんなが同様に実験を始めました。子どもが布の下に寝転がり、大人が布を持ってふわふわと上下させると、とても素敵な世界が見えるようで、時間を忘れて眺めていました。
実技室で行われる子ども向けワークショップは、作品(例えば絵画作品や彫刻作品など)を「作る」体験が中心になることが多いのですが、今回のワークショップでは「色」や「光」という捉えどころのないもの材料にして「光のカーテン」づくりに挑戦しました。子どもたちにとって、解釈が難しい場面が出てくるかもしれないと予想をしていましたが、そんな心配は全く無用で、遊んでいるうちにいつの間にか、たくさんの色と光が実技室にあふれていました。
2018年11月01日(木) 作れちゃう
実技室プログラムのご案内です。
10月6日と7日に創作週間スペシャル、イニシャルを「カトゥルーシュ」で飾ろうを実施しました。インストラクターは当館実技室のインストラクターで銅版画の、柳本一英氏です。
今回は、銅版画のエッチングの技法で、版を2つ作り、カラーインクを使って、下の写真のようにに多色刷りの作品を制作をしました。
銅版画の作品を見ていて、装飾文字や、美しいフレームを見た覚えはありませんか?今回のテーマ「カトゥルーシュ」とは、もともと、古代エジプトの象形文字で「囲む」という意味を持ち、王様や身分の高い人の名前を囲うために用いられました。時代を経て、さまざまな装飾的な要素を取り入れながら、建築や室内装飾に用いられるようになり、銅版画の作品にも見られるようになりました。今回は、この「カトゥルーシュ」や、装飾文字に焦点を当てた講座になりました。それでは、どのようにして、作品が出来上がったか、当日の様子をご覧ください。
<1日目>
今回は、このように文字とフレームを分けて、2版多色刷りで作品をつくりました。
講座の冒頭では、使う道具の説明と、エッチングの仕組みについての説明から始まりました。
エッチングは、銅を腐食させる部分と、させない部分をつくることで、線を作り出す技法です。あらかじめ銅版に「グランド」と呼ばれる防食膜を張って置き、その被膜を引っかいたところが腐食されて、インクが入る溝ができるという仕組みです。下の写真のように、「ニードル」という鉛筆のような針で線をひきます。
口頭で説明しても、なかなかイメージが沸きづらいところですので、デモンストレーションをしながら順を追って進行しました。
まずは、銅版の描写しない背面が腐食されないように、腐食止めシートを銅版の裏面に貼り込みます。
そして、「グランド」と呼ばれる防食膜を張ります。張る、といいますが、グランドの液体を銅版に直接垂らして、画面全体に行きわたるように広げます。
上手くいけば、表面張力で版からグランドがこぼれないのですが、版からグランドがこぼれてしまいそうになり、どうしても慌ててしまう場面です。皆さんにはとても慎重に作業していただき、大きな失敗無くグランド処理することができました。グランドが乾くまで少し時間がかかるので、その間に下絵の準備をしました。
下絵作りでは、こちらで用意したフレームと文字を組み合わせたり、絵を付け足したりして自分の絵柄をつくりました。細かい絵柄と、シンプルなフレームがありましたが、細かい柄にチャレンジして下さった方が多くいらっしゃいました。
次に、版と下絵の間にカーボン紙を挟んで版に転写します。
とても細かいので、どうしても転写し忘れてしまう部分が出てきてしまいます。時々、版にちゃんと写ってるかな?とめくって確認します。
これで絵柄が版に写りました。ここから、ニードルやエショップを使って、絵柄通りに引っかいていきます。
白くキラッとしている箇所が引っかいた場所です。描写自体は、薄い膜を剥がすだけなので、ニードルに力は必要ありません。鉛筆で描く感覚とは異なるのですが、鉛筆と同じ感覚でニードルを握るので、つい力が入ってしまいます。
繊細な線を慎重にたどっていきます。とても細かいのですが、皆さん集中して制作されていて、静かな時間がしばらく続きます。
お昼を挟んで、終わったかたから腐食に入ります。こちらのこげ茶色の液体が、塩化第二鉄という腐食液です。この中に、先ほど作った版を入れて、腐食が進むのを待ちます。
そして腐食が終わったら、灯油とホワイトガソリンを使って、防食膜のグランドを落とします。あっという間に元の銅の色に戻ります。
落としたあとがこちらです。引っかいた線が、溝になっています。指でなぞると、なんとなく凹凸ができているのを感じられる程度の、浅い溝です。この溝にインクを詰めて、プレス機で圧をかけて刷っていきます。さっそく刷りたいところですが、刷りには充分な時間が必要なので、明日のお楽しみ、ということで、刷りに向けて紙を湿してからお帰りいただきました。刷る紙を湿らしておくことで、インクののりを良くすることができます。
印刷には、ハーネミューレというコットンパルプ100パーセントの、厚みのある洋紙を使用しました。そのまま紙を水に沈めて、紙が水を吸うのをしばらく待ちます。「刷る前に濡らすと、なんだか悪そうな気がするのだけど…」という声がたまにありますが、とても丈夫な紙なので、濡れて破れてしまうこともありません。思い切って水に沈めて、しばらく水を吸うのを待ちます。
そのあと窓に貼りつけて、水を切ります。
さらに、スポンジで水分を調整した後に、ビニールに包み、重石をかけて、このまま明日まで置いておきます。
これで1日目が終了です。どれもとても細かい絵柄でしたが、みなさん腐食の段階まで終えることができました。明日はついに刷りに入ります。多色刷りですので、配色が肝です。準備されたカラーインクを見て、想像をふくらませながら帰路につきました。
<2日目>
さあ刷るぞ!と言いたいところですが、刷りに入る前に、「プレートマーク」という版の縁についた斜めの部分を仕上げます。このプレートマークをつけることで、刷る際にプレス機のフェルトや紙が痛むのを防ぎます。今回はもともとスタッフの手でプレートマークを削っていたのですが、荒削りだったので、ここでキレイに仕上げていただきました。
ようやく刷りの段階に入ります。最初に柳本さんのデモンストレーションを見て、インク入れるところから、プレス機にかける流れを確認しました。
まずはインクをつめて、
?余分なインクを寒冷紗で拭き取り、薄い紙でさらに拭き取ります。これで刷る前の準備ができました。2版ともこの工程を行います。
プレス機を使って、刷っていきます。今回は2版ですので、2つの版がぴったり重なるように刷ります。下の写真は1版目が刷り終わり、2版目を刷るところです。
こんなふうに刷ることができました。版を洗浄すれば、色を変えることができるので、色の組み合わせを試していきます。今回は8色のカラーインクをご用意しました。色見本はとても濃く出ていますが、刷るとまた違った具合になります。多色刷りで、色が重なる部分もあるので、色のがどのように作用するか試しながら刷っていきます。
皆さん休憩も無しに、皆さん黙々と刷り続けてくださり、あっという間に3時になりました。1人5枚刷って、ひとまず終了です。5枚というと、一見少ないように思えますが、インクをつめる行程を5回繰り返すには、意外と体力を使います…。
最後に皆で鑑賞会&感想会をしました。感想をうかがってみると、ほとんどの方が、銅版画は未経験だったようです。特に失敗が無く、それぞれ作品として形にすることができました。どのような作品が出来上がったか、一部をご覧ください。
作品のなかには、元々のフレームにオリジナルの絵柄を入れる方もいらっしゃいました。同じ絵柄でも、色を組み合わせて刷ると、また違った印象になりますね。今回作った版は、保管しておけばまた刷ることができますし、加筆することもできます。今回は短時間の制作でしたが、これからまた創作週間等で自主制作していただけると、どんどん作品作りの面白さを感じていただけると思います。当館収蔵品の銅版画の作品のなかには、エッチングの技法で制作された作品が多数あります。遠い昔に作られた作品ですが、技法を体験することで、作者の視点に添うような形でも鑑賞していただけるようになると思います。
次回の創作週間スペシャルは、シルクスクリーンです。
2月10日・11日に実施を予定しており、1月の上旬から参加者募集を開始する予定です。お楽しみに!
「幕末狩野派展」関連講座として、9月22日から二日間連続で扇面画を描く講座が開催されました。本展覧会に出展されている、橋本雅邦《暮山図・鶺鴒図扇面》は、明治38年にセオドア・ルーズベルト大統領夫妻に贈られたと考えられる扇で、外交において重要な役割を果たす贈答品だった可能性が高い作品です。扇というと、現代では、涼を求めてあおぐ夏扇が一般的ですが、時代をさかのぼると、戦の褒美や男女の契りの証として用いられるなど、単にあおぐだけでなく、表現や意思疎通の手段として重要な役割を果たしていたことがわかります。本講座では、そういった扇の用途にも着目した上で、大切な人へ想いを馳せながら「贈る扇」の図案を作成していただきました。
はじめに、本展覧会を担当している野田麻美学芸員から、展覧会の見どころについてレクチャーを受けました。企画展示室の最後を飾る扇面を囲み、この扇が贈答品として用いられた経緯や、狩野派と扇の関係について話が及ぶと、参加者の方々は興味深そうに扇に見入っていました。俵屋宗達は扇屋だったことで有名ですが、狩野派も、もともとは扇屋として画業をスタートしたそうです。狩野派の系譜につらなりながらも、近代への橋渡しとしての役割を担った橋本雅邦が、最晩年に手がけた扇であったことを知り、感慨深い気持ちになると同時に、扇が人と人を繋ぎ関係性を深める重要な贈答品だったことに、改めて気づかされました。
実技の講師には、静岡県出身の日本画家、鈴木強先生をお招きしました。鈴木先生の作品は、金箔を用いた吉祥画が多く、当館の講座では日本画や金箔貼りを中心に、10年以上ご指導をいただいています。
今回の講座では参考作品として、鈴木先生描き下ろしの扇面画を扇子に仕立てたものを用意しました。《波に雀》(左)には金銀砂子が、《昇鯉》(右)にはひび割れたようなテクスチャーの切箔が施されています。自分の描く図案に合わせて、どのように箔を用いるかも腕の見せどころになります。
鑑賞の後、各々の扇面画制作にかかりました。今回は贅沢にも、展覧会会場の作品をスケッチする時間を設け、図録なども参考に主題となるモチーフを選択し、図案を考えました。
上の写真の参加者の方は、2羽の鶴を主役に描くことを決めました。扇面というアーチ状の画面を活かし、モチーフをどこに配置するべきか、考えを巡らせます。
下絵が出来次第、本番用紙へと写していきます。日本画の制作工程では「写す」という作業が度々あります。下絵を描く→下絵をトレーシングペーパーなどの透ける薄紙に写す→写した下絵を転写紙で本番用紙に写す…と、最低でも3回は同じ図案を描くため、どうしても面倒な気持ちになりますが、都度、新鮮な心持ちで取り組むことで、出来栄えも大きく変わります。
皆さんの下絵が出来上がってきたところで、鈴木先生から、墨、胡粉、水干、膠といった、日本画特有の画材について、扱い方のレクチャーがありました。今回の講座では、扇を仕立てた時に滲みなどが生じないよう、特殊なメディウムも使用しました。
本番用の図引紙(扇面用紙)に写した下絵を墨で描き起こしていきます。この工程を「骨描き」と呼びます。墨で引いた線は乾くと滲まず、流れませんので、まさに絵の骨格となる線になります。
上の写真は、当館所蔵品で、本展覧会にも出展されている狩野永岳《富士山登龍図》を参考に描いた図案です。本物は掛幅装で縦長の構図ですが、扇面に合わせて、右に暗雲から現れる龍の頭部と、左に富士を配置しています。扇子を少しずつ開く度に臨場感が増す構図に仕上がっています。
扇面を池に見立て、蓮と鴨を描いていた方の作品です。右側に白く抜けている蓮の葉には、金箔を施す予定とのことでした。皆さんの着彩の目途が立ったところで、どんな風に箔の意匠を施そうかと思案を巡らせつつ、1日目を終了しました。
2日目の午前中に、箔を用いた様々な技法のレクチャーを受けました。最初に「砂子撒き」のやり方を教わりました。竹製の筒に金網の張られた「砂子筒」に箔を入れ、固めの刷毛でかき回すと、網目から箔がはらはらと落ちてきました。砂子を撒きたい場所に予め膠を引いておくことで、膠が糊の役目を果たし、箔が画面に付着します。
上の写真は、金箔を砂子撒きした直後の状態です。まだ箔が立っているのがわかります。この後、膠が半渇きになるまで待ち、あて紙をした上から固いもので箔を押して定着させます。
つづいて「箔あかし」を教わりました。金箔は非常に薄く、1枚で扱うことが困難です。「あかし紙」という紙に箔を貼りつけた状態にすることで、画面などに施すことが可能になります。箔を上手くあかせるまでにも経験を要するため、この体験の後に、狩野派が手がけた金屏風などを目にすると、技術力の高さに驚愕します。
画面を金箔で埋め尽くす際には、あかした箔を四角いまま貼り付けますが、今回の講座では、各自の意匠に合わせて箔を貼れるよう、特殊な「箔のり」も用いました。上の写真は、雲の部分に箔のりを塗り、あかした銀箔を貼り付けたところです。ひと通りのレクチャーを受け、各々の図案に最適と思われる技法で箔を施しました。
鶴を描いた方は、明るい緑色の背景に金銀の砂子を撒きました。まさに吉祥画という雰囲気で、お祝い事に贈れそうな、華やかな仕上がりになりました。
下の写真では、箔を貼り付けた後、膠が乾ききる前に固い刷毛で箔の表面を叩いています。こうすることで箔が少し剥げ、趣のあるテクスチャーを作り出すことができます。
波間に宝船、その間に散らすように金銀箔が施され、お正月にも飾れそうな、お目出たい雰囲気に仕上がりました。
2日間というタイトなスケジュールで、扇面画の意匠の考案から着彩、金箔貼りまでを全員終えることができました。途中、参加者の方から「この扇は娘に…」といった話も耳にしましたが、時間が許せばお一人ずつ、扇に込めたメッセージについて、お話をいただきたかったです。最後に皆さんの作品を紹介します。どんな想いを込めて制作されたか、想像していただけると嬉しいです。
扇子に仕立て上がるのはまだ先になりますが、出来上がりが本当に楽しみです。
実技室プログラムのお知らせです。
8月25日に「安野光雅のふしぎな絵本展」関連ワークショップの、「トンガリ帽子をかぶって展覧会に行こう!」が開催されました。
今回は未就学児を対象として、午前と午後で1回ずつ開催し、子どもたちの声で賑やかな1日になりました。
それではどのようなワークショップになったのか、当日の様子を、午前と午後の部をあわせてご覧ください。
今回のファシリテーターは、当館実技室のインストラクターの丸山成美氏です。
ワークショップの冒頭では、まずは何歳の子が参加しているか、質問をして挙手していただきました。最年少で1歳、最年長で7歳と、幅広い年齢の子どもたちが参加してくれました。当日が美術館デビューの子もたくさんいたので、デビュー記念!ということで、拍手で歓迎しました。
展示に出品されていた作品には、このような小さな妖精さんがたくさん出てきます。展示室に向かう前に、小さなグループに分かれて、まずはこの妖精さんと同じように、トンガリ帽子を作ってみました。
帽子は、画用紙を頭のサイズにあわせてとめ、あごヒモをつけたら完成!これで大人も子どもも、妖精さんの仲間入りです。今回のワークショップでは、小グループに分かれて進行したので、普段接することのない年齢のお友達と出会いがあったようです。教えてあげたり、作ってもらったり、協力し合っている姿を度々見かけました。
そして、展示室で皆で楽しく作品を見るために必要なお約束ごとをお話しました。
それでは、トンガリ帽子をかぶって、「ふしぎ」のせかいへ出発です!
展示室に到着し、安野さんの作品を見ると、さっそく子どもたちは「ここに妖精さんがいるよ」とたくさんの妖精さんを見つけてくれました。
こちらは、「あいうえおの本」コーナー。みなさん活発に見つけたものを教えてくれました。
展示室内には、さわれる作品もいくつかありました。「なんでこうなるの?こうしてみたら、どうなるの?」と考えながら楽しんでくれました。
「た」に乗ってあそんでいる子もいました。まるで作品に出てきそうな光景ですね。
そして最後のお部屋には、妖精さんたちがたくさん飛んでいます。トンガリ帽子をかぶった参加者の皆さんも、違和感なくふしぎの世界に溶け込んでいます。
実技室にもどってから、「あいうえおの本」をみんなでもう一度じっくり鑑賞しました。こちらの作品には、「あ」からはじまる何かが、描かれています。さあいくつ見つけられるかな?
見ればみるほど、いろんなものが見つかり、安野さんの細やかな仕掛に大人も思わず唸ってしまいます。
4つの作品を鑑賞したあと、たくさん見つけてくれたみんなには、ちょっとしたご褒美をお渡ししました。
こちら、がま口のお財布です。
中には、なんと「けんびぎんこう」が発券した、子ども用のお金が入っています。
このお金で、みんながかぶっているトンガリ帽子の飾り付けをするための、シールが買えちゃいます。
気が付くと、子どもたちの後ろにはお店が並んでいます。さあ、お買いもののスタートです。
たくさんの種類から、シールを選んでお金と交換します。それぞれのお店で売っているシールが異なるので、お店をはしごしてシールを買い集めます。好きなカブトムシをたくさん買う子もいれば、自分の名前の文字をみつけて、買っていく子もいました。
買ったシールは、このように帽子に貼って飾り付けをします。
こちらは工作コーナー。色ペンで好きな絵を描いて、帽子に貼りつけたりすることができます。
だいぶ帽子の飾り付けが充実してきたところで、お時間となりました。
それぞれ、すてきなオリジナルのトンガリ帽子が完成しました!
最後にみんなで写真撮影を楽しみました。
今回のワークショップは1回2時間、帽子をつくり、展示室へ行き、また実技室へ戻り…と、未就学児にとってはハードスケジュールだったと思いますが、終始皆さん最後まで楽しく参加してくださいました。子どもたちの「また来るね!」という言葉や、保護者のかたから「子どもたちの美術館へのハードルが下がり、とても楽しく過ごせた」とのお声をいただき、スタッフ一同嬉しく思います。
静岡県美では、小さなお子さんや、ご友人と一緒に、作品の感想を話しながら、気軽に作品鑑賞ができるよう、「トークフリーデー」を設けています。毎週水曜と土曜日(ただし、展覧会の初日が水曜日又は土曜日だった場合、その日は除く)に実施しています。ぜひ、またお子さまと一緒に展示をお楽しみください。皆さまの、またの越しをお待ちしています!
2018年09月09日(日) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。
「安野光雅のふしぎな絵本展」の関連講座として、 8月5日に実技講座の水彩画編、「オリジナルの「かぞえてみよう」をつくろう」 を開催しました。
今回の展示にも原画が出品されていた、安野光雅氏の絵本『かぞえてみよう』は、ページを追うごとに季節が進み、少しずつ増えていく木や家を数えながら、小さな町の展開を楽しむことができる絵本です。 今回の講座では、この『かぞえてみよう』をテーマに、オリジナルの「かぞえてみよう」を水彩で描いて、かんたんな絵本にしました。今回の講師は、当館実技室のインストラクター、野呂美樹さんです。
講座の冒頭では、最初に安野さんのご紹介をした後に、『かぞえてみよう』を皆で読みました。読んだことがあるかたも何名かいらっしゃったのですが、改めて、みんなで何が描かれているかお話をしながら探してみました。
そして、ページ毎に見つけたモチーフをホワイトボードに書きだします。
人物の動きにも着目すると、様々なドラマを想像することができます。参加者同士で、「この人は何をしているのかな?」「この人はこうなんじゃない?」と会話をしながら絵本を楽しみました。 短い時間でしたが、それぞれのページに描かれている、その月ならではのモチーフが沢山見つかりました。今まで本を読んだことがあった人も、新しい発見があったようです。
これをヒントにして、自分の「かぞえてみよう」に何を描くか、決めていきます。目標は、3つの数字をテーマに、3ページ描くことです。『かぞえてみよう』のルールに乗っ取って描くので、例えば「10」の数字を選ぶと、モチーフをそれぞれ、10個描く必要があります。この段階でお昼前、残り3時間程度でしたので、時間と相談して数字を選びます。一方で、周りの人たちとお話をするうちに、いろんなアイディアが浮かんできて、段々と画面がうまってきます。
着彩に入る前に、今回使う水彩と画材の説明をしました。 水彩というと、小学校のときに使った記憶がある方が多いと思いますが、改めて水彩絵の具の特長を説明しつつ、技法をいくつか紹介しました。? まず「ウエット・イン・ウエット」です。あらかじめ紙に水分を含ませたあとに、水分を多めに含んだ筆で色をとり、筆先で色を落とすと、色がにじんで表れます。そして「ドライ・オン・ウエット」、こちらは乾いた上に塗り重ねることで、水彩の透明感を用いた表現ができます。
そして、「マスキングインク」を用いた技法もご紹介しました。こちらは、画面に白抜きの箇所を作りたい時に便利です。白抜きというと、繊細な作業が必要で難しそうに見えますが、マスキングインクを使うと、おもしろいほど簡単にできます。あらかじめ白抜きにしたい箇所にマスキングインクを塗っておき、乾いたらその上から色を塗ります。絵の具が乾いたら、擦って落とすと、白抜きができているという仕組みです。
こちらは途中でスタッフがマスキングインクで試作した花火です。白抜きした後に色をつけても良いですね。
筆のつかい方、パレットのつかい方、水分のコツなども一通り説明した後に、いよいよ着彩に入ります。今回は作品のサイズが小さいので、細かい塗りが必要になります。
極細、面相筆、平筆の3種類の筆を使い分けつつ、塗っていきます。
同じ色を使う場所を一気に塗ったりなど、皆さん計画的に進めていらっしゃいました。
あっという間に時が経ち、最後に作品の鑑賞会をしました。安野さんの絵本では、小さな町が舞台になっていますが、皆さんの作品では「東京」や「京都」など、日本の具体的な地名を設定した作品がいくつか見られました。夏休みシーズンということで、この夏の思い出も交えた作品もありました。
未完成の作品が多かったのですが、後日の創作週間で、続きを制作してくださった方がいらっしゃいました。
完成作品をご紹介させていただきたいと思います。
完成すると、このような本型になります。
では中のページをそれぞれ見てみましょう。
それぞれ何の数字をテーマにしているか、考えてみてくださいね。
<1ページ目>
<2ページ目>
<3ページ目>
それぞれ何の数字をテーマにしているか、お分かりでしょうか?
静かな場所が、ページを追うごとに、たくさんの個性的なお店が立ち並ぶ賑やかな町になりました。
ページごとに、マスキングインクをお使いになっていますが、同じ白抜きでも、雪だったり、花に見えたりするのが面白いですね。
さらに、もう一つ作品をご紹介したいと思います。
<1ページ目>
<2ページ目>
<3ページ目>
ページを追うごとに、少しずつ木や人増えていき、生活の様子がうかがえるようになりました。
描かれているものや、右上に描いていただいた数字も見ると、季節も進んでいるようです。
一番最後のページの空は、夏の真っ青な空の色ですね。
お二人とも、素敵な作品を完成していただき、ありがとうございました。
今回は安野さんの筆致を追って、小さな仕掛や工夫を見つけることで、安野さんの作品をいつもと違った角度からお楽しみいただく機会になりましたら幸いです。