2018年09月08日(土) 作れちゃう
8月最後の日曜日に「安野光雅のふしぎな絵本展」関連ワークショップ、わくわくアトリエ「みんなで作ろう!あ・い・う・え・おからはじまる切り絵」が開催されました。講師には、毎年、切り絵ワークショップでお世話になっている福井利佐さん(切り絵アーティスト)をお招きしました。今回のワークショップのアイデアは、安野光雅さんの絵本の大ファンだという福井さんが『あいうえおの本』から着想を得て考えてくださいました。静岡の「し」と県立美術館の「け」からはじまる言葉を切り絵で制作し、さらに皆さんが作ったひとつひとつの作品をつなげて、高さ約2mの大きな「し」と「け」の文字を形づくりました。
それでは、午前・午後と各回にご参加いただいた皆さんの制作の様子を追いながら、素敵な作品が出来上がるまでをご紹介します。
はじめに、福井さんと一緒に展覧会を鑑賞しました。この後のワークショップのウォーミングアップも兼ねて、『あいうえおの本』の原画コーナーを中心に、絵の隅々までよく見ていただきました。
安野さんの作品と展覧会の雰囲気を少し味わったところで、ふしぎの世界からやってきたトンガリ帽子のお姉さんの待つ、第6展示室に集合しました。こちらの展示室の壁面に、ワークショップで制作した切り絵作品が展示されることになります。福井さんから「みなさんが作った作品を美術館に展示しますよ」との言葉を受け、少しどよめきました。こんなに大きな壁を埋める作品が出来上がるかしら…と。実はスタッフも内心ドキドキでした。
実技室に戻り、『あいうえおの本』をモニターに映しながら、今回、展示されていなかった文字や、切り絵で制作する「し」と「け」のページを、皆さんと鑑賞しました。下の写真は、展示室にも原画のあった「さ」のページです。パッと見てわかる「さる」や「さんりんしゃ」の他に、装飾の枠の中にもたくさんの「さ」のつくアイテムが隠れています。福井さんが「見つけられた人は教えてね」と声をかけると、子どもたちが前のめりになって発表してくれました。
一生懸命、絵本を見つめる子どもたち。知ってる言葉を誰よりも早く言いたい!そんな気持ちが伝わってきました。
あいうえおのウォーミングアップを終えたところで、「し」のつく言葉のアイデア出しをしました。
しまうま、しか、しいたけ、しっぽ…大人も子どもも「し」のつく言葉をたくさん発表してくれ、あっという間にホワイトボードがいっぱいになりました。これらの言葉も参考にして、各自、切り絵の下図を考案しました。
制作に入る前に、福井さんからカッターの使い方のレクチャーを受けました。
切る時は、中心から外側へ、小さな面積から大きな面積へと進めていくと、きれいな仕上がりになるとのことで、このことを時々思い出しながら制作を進めるのが、とても大切です。
今回のワークショップは、小学校低学年の子どもが多く参加していたこもあり、初めてカッターを使う子どももいました。刃の向きや添える手の位置など、大人にとっては当たり前のことも、子どもたちにはやり慣れない、注意を要する作業です。福井さんやスタッフ、親御さんのフォローのもと、一生懸命に取り組みました。
そして、福井さんの作品「しばいぬ」を参考に、切るところと残すところ、仕上がりのサイズなどを確認しました。参考作品とはいえ、今回のワークショップのために制作してくださいました。上手すぎる…。喜ぶ子どもたちをよそに、親御さんたちのやる気スイッチが入ったように感じました。
そしていよいよ、各自で「し」のつく言葉のモチーフを見つけ、下絵作りが始まりました。何も見ないですらすらと描きあげてしまう方もいれば、
スマホの画像を見ながら描く子どももいました。時代を感じます…。
下絵が描けたら、その用紙をそのまま色紙に貼りつけて、下絵と一緒にカットしていきます。下の写真の方は、3点も作ってくださいました。
今回は、たくさんのモチーフが必要だったため、スタッフも制作に加わりわました。必死です。
最近、学校ではあまりカッターを使わせないそうで、子どもたちにとっては新鮮な作業のようでした。扱いに四苦八苦しながらも、みんな夢中で取り組んでいました。
下絵を外したらどんな風に出来上がっているかな、というわくわく感が、作品へと向かう集中力になっているのかもしれません。
制作から1時間も経たないうちに、作品が出来上がってきました。1番のりは「ショートケーキ」でした。美味しそうです。
1人出来上がると次々に作品が仕上がり、しろくまとジュゴンも登場しました。
右から、シャープペン、シャボン玉、ジーンズ、しましま、シカ、しいたけ、しそ、シロフォンとマレット、シマリス、清水エスパルス、新幹線、しり…
出来上がった作品が増えてきたところで、福井さんが「し」のかたちに整え始めました。
最初の心配をよそに、どんどん大きくなって…立派な「し」が形を現しました!下の写真は、実技室の壁に貼れるよう、ぎゅっと詰めた状態ですが、それでも高さ150cmはあるでしょうか。(完成の一歩手前の写真です)
ワークショップのさいごに、作品の名前をひとつひとつ発表していただき、大成功のうちに午前の回を終えました。
午後の部の様子も、少しご紹介します。午後は県立美術館の「け」からはじる言葉を切り絵で制作しました。
ご家族でご参加いただいた中には、午前よりも小さな子もいましたが、とにかく一緒にチャレンジ。「けむし」を制作中です。
4人のお子さんとご参加のお母さんは、子どもたちの作品を手伝いながら、自分の作品「けっこんゆびわ」も仕上げていました。すごい!
下の写真の子は「けいこうとう(丸型)」を作ろうとしています。実は直線型の蛍光灯と2作品作ってくれました。素敵なアイデアです。
こちらは親子で「げた」の左右を制作中です。色を合わせているところも素敵ですね。
下の写真の右の方に少し見えているのが、「け」の左側です。(きたろうの)げた、けむし、ケーキ、けやき、蛍光灯(直線型)、ケイマフリ(鳥)、剣…、福井さんが持っているのは、ふっくらとして美味しそうなケガニです。
そして、午後も素敵な「け」が完成しました!どちらの文字も時間内に予想以上の数と出来映えで仕上がり、皆さんのがんばりに心から感謝です。
ワークショップで制作した作品は、8/26~9/2の間、「安野光雅のふしぎな絵本展」第6展示室内に展示され、会期末に訪れたたくさんのお客様にお楽しみいただきました。福井さん、今年も素敵なワークショップをありがとうございました!
2018年08月31日(金) 作れちゃう
「安野光雅のふしぎな絵本展」関連ワークショップ第1弾として、つみきのそのさん(つみきアーティスト)による、つみきワークショップが行われました。そのさんは、県内各地で「つみき」をコミュニケーションツールとしたユニークなワークショップを多数開催されています。県美では初めての、そのさんのつみきワークショップでしたが、ママ友間の情報網の力か、募集開始から驚くほど多くのお申込みがありました。
はじめに、参加者の皆さんと一緒に展覧会を鑑賞しました。本展覧会を担当している三谷学芸員から、安野光雅さんや作品についての紹介、つみきのそのさんのご挨拶とつづき、ふしぎのせかいからやってきた、トンガリ帽子のお兄さんも登場しました。
今回のワークショップは、3歳以上の子どもから参加が可能だったこともあり、ご家族そろっての参加がほとんどでした。安野さんの絵本には、子どもが夢中になる魔法があるようで…、お父さんやお母さんが先に進もうとしても、なかなか絵の前から離れない子どもの姿を、何度も目にしました。
展覧会の雰囲気を少し味わったところで、いよいよ実技室でワークショップのはじまりです。そのさん自前の『あいうえおの本』で読み聞かせが始まり、どんどん、そのさんワールドに引き込まれていきます。
最初の遊びは「つみきdeふしぎなドミノ」から始まりました。参加者の皆さんが、実技室をぐるっと囲んで座った状態で、自分の目の前にあるつみきを、隣の人とつながるよにうに並べていきます。次々に並べていくと、あっという間に大きなドミノが出来上がりました。
じゃんけんで一番になった子どもが、そーっと、ドキドキしながら先頭のドミノを倒すと…可愛らしい木の響きとともに無垢のつみきが倒れていきます。固唾をのんで見守る全員の前を通って、最後のしかけに到着!歓声が上がりました。
次の遊びは「つみきのなかに入ってみよう」でした。誰でも、つみきでお城を作ったりしたことはあると思いますが、自分が中に入れるくらいのものを作る機会は、なかなかありません。最初は、円の形につみきを並べるところからスタートしました。
その後はひたすら、一定の規則で、子どもたちにつみきを積んでもらいます。そのさんは、子どもが積んだつみきを、工事現場のマシーンのように、ぐるぐる回りながら整えていきます。
あれよあれよという間に、つみきは子供の身長を超え、今度は大人が高いところにつみきを積み上げました。
出来上がったつみきドームには、そのさんの巧妙なテクニックで入口の穴があけられました。
こどもたちは、本当につみきの中に入れるとわかって大興奮!行列を作って、一組ずつ順番に、つみきのなかのふしぎな世界を堪能しました。
上からのぞいてみると、こんな感じです。つみきのお家はいかがですか?
つみきドームを堪能した後は、ドームをジェンガのように崩して遊びます。いつ崩れるかな。ドキドキ…
ガッシャン!!大きな音をたてて、あっという間につみきドームが崩れました。
たくさんのつみきと、体をめいっぱい使って遊んだところで、今度は、そのさん劇場「つみきむかしばなし」のはじまりはじまり…。三角形のつみきを8個つなげた「はっこさん」を使って、皆さんご存知の昔話『桃太郎』が繰り広げられました。
おじいさんにおばあさん、桃から生まれた桃太郎、いぬ、さる、きじに鬼ヶ島の鬼まで!
8個のつみきが次々とかたちを変えて作られていく様子に、みんながひき込まれ、似てるの似てないのと子どものツッコミも合いの手を打ち、大爆笑の内にそのさん劇場は幕を閉じました。
ワークショップ参加者の方たちにご協力いただいているアンケートには「とにかく楽しかった」「もっとつみき遊びを教えてほしい」といった声が多く見られました。皆さんが、我を忘れてつみきの世界に入り込むという経験に至ったのは、そのさんの人柄や話術の面白さももちろんですが、つみきそのものが持つ特性、多様性を受け入れ、誰もが楽しく、その世界に入りこんで堪能できるという懐の深さゆえかもしれません。子どもも大人も「ふしぎなせかい」に夢中になって見入ってしまう、安野さんが描く作品との共通点を感じずにいられませんでした。
2018年05月11日(金) 作れちゃう
新年度初講座、創作週間スペシャル「ロダン彫刻でデッサンの基礎を学ぶ」が行われました。
当館では、1年を通して、月に1回(2日間)のペースで「ロダン館デッサン会」を行っています。通常のデッサン会は、指導者を入れず、未経験者も経験者も自由に描き、ロダン彫刻に親しんでいただく機会として実施しています。今回の講座では、アステール総合美術研究所(所在地:静岡県三島市)で美大受験のデッサン指導にあたる、野呂美樹さんをお招きし、素描の基礎についてレクチャーを受けた上で、ロダン彫刻の鉛筆デッサンに取り組んでいただきました。
はじめに、美術研究所の生徒が描いた参考作品を紹介すると、「わあ…」という声が上がりました。この講座では、美大受験生のようなデッサンを描くことが目標ではありませんが、参考作品を見ることで、普段自分が描いているデッサンとどのような点が違うのか、どうして上手く見えるのか、発見することができます。
1日目は、デッサンに臨む姿勢、鉛筆の削り方、練り消しゴムや測り棒の使い方といった道具の扱い方とともに、対象の測り方、構図の取り方など、鉛筆デッサンをする上で基本となる内容のレクチャーを受け、各自、自分の描きたい作品の前へ移動してデッサンを開始しました。
上の写真は、ロダン館展示室2でデッサンを始めた方々の様子です。こちらの部屋には、青年期のロダンの作品や、ロダン以前に活躍した彫刻家の作品が展示されています。毎月のデッサン会でも人気のあるモデル、ジャン=バティスト・カルポー《悲しみの聖母》の周りに、複数のイーゼルが立てられました。このエリアはデッサン会リピーターの方々が中心でしたが、先ほど受けたレクチャーを思い浮かべ…いつもより慎重に、測ったり、構図を考えたりしている姿が印象的でした。
こちらは、オーギュスト・ロダン《カレーの市民》エリアのデッサン風景です。当館所蔵の《カレーの市民》は、一体ずつ独立しているのが特徴です。人質となり、意気消沈したカレーの英雄の表情、体全体から滲み出す苦悩を、どうすればデッサンで捉えられるのか、描き始める前にじっくりと作品と向き合っていました。
上の写真の方は《永遠の休息の精》をモチーフに選びました。画面に力強い線で、体の大きな流れを印しているのが見てとれます。時々、作品の横で同じポーズを取ったりしながら、この難しい重心の像をなんとか捉えようとしている姿も見られました。
画家の《クロード・ロラン》(写真左)や《バスティアン=ルパージュ》(写真右)、奥には《考える人》を描いている方も見えます。これだけ有名な人々(考える人もあえて人に含みます…)をデッサンするというだけでも、貴重な体験ですね。2人の画家の像は、実在した人物ですが、ロダンにとっては2世紀も前の人物です。それを忘れさせるようなエモーショナルな表現を、デッサンでどのように捉えるかが腕の見せ所です。写真手前の2名の女性は、人物像を彷彿とさせるような情感を伴った表情を、大胆な構図で切り取っていました。
本館からロダン館を繋ぐブリッジギャラリーには、ロダンと同時代、またはそれ以降に活躍した彫刻家の作品が展示されています。A.マイヨール《イルド・フランス》のトルソを、2名の参加者がデッサンしました。優美な裸体像ですが、フォルムとは対照的な要素、硬質なブロンズの黒がデッサンの難易度を高くするようで、黒色の質感に苦戦されている様子でした。
1日目の終わりに、参加者の皆さんのデッサンを並べ、途中経過の共有をしました。1人でもくもくと進めていると、どうしても越えられない壁が現れるものですが、同じように取り組んでいる方の作品を目にすることで、自分の作品も客観的に見れることがあります。皆さんと同時に描き始めた、インストラクターのデッサンも参考にしつつ、個々の進捗状況や今後の課題を確認し、1日目を終了しました。
2日目は、ガーゼを用いたトーン(モノトーンの色調)の付け方のレクチャーから始まりました。いよいよ、鉛筆の濃淡を駆使して、デッサンを描き込みを開始しました。芸大や美大の試験で求められるデッサンは、1日の内の決められた時間内にデッサンを完成させるというような、非常にタイトな工程ですが、本来のデッサンは、どこまで描き込み、どこで終えるかは、自分と作品との対話の中で決定されるものだと思います。今回の講座に参加された方も、今日までのレクチャーを受けて、十人十色の進め方が見て取れました。この講座の後、「通常のデッサン会で続きを描くよ」と話されていた方もいました。まだまだ途中の段階ですが、皆さんの力作をご紹介いたします。
上の3作品、ジャン=バティスト・カルポー《悲しみの聖母》のデッサン
オーギュスト・ロダン≪カレーの市民≫ジャン・ド・フィエンヌのデッサン
オーギュスト・ロダン≪カレーの市民≫ユスターシュ・ド・サン=ピエールのデッサン
オーギュスト・ロダン≪カレーの市民≫ジャック・ド・ヴィッサンのデッサン
オーギュスト・ロダン≪カレーの市民≫ジャン・デールのデッサン
上の2作品、Aマイヨール《イルド・フランス》のトルソ、デッサン
2日目の最後には、お一人ずつの作品を見ながら感想会を行いました。講師対参加者でなく、周りのスタッフも交えつつの感想会は、いつの間にか、一般のお客様もギャラリーとして巻き込み、良い雰囲気の中、2日間のデッサン会を終えました。
デッサンのルールにとらわれず、感性のままに描くというのも有意義な体験ですが、対象の見方、描き方のコツを掴むことで、デッサンはぐんと上達します。自分でも見違えるほどの変化を感じられると、やはり嬉しいものです。2日間、皆さんのデッサンを拝見し、1日目よりも2日目と、作品が充実していく様子が見てとれました。講座を通して色々な気づきや発見があったのではないかと思います。また、今はまだその気づきを上手く絵に反映することが出来なかったとしても、この先のデッサン会の中で、その発見を追求し、自分のものにしていただけたらと思います。
2018年02月28日(水) 作れちゃう
2月18日に、わくわくアトリエ「陰刻で妖怪を作ろう!陰刻技術開発研究」ワークショップが行われました。
今回のワークショップでは、講師に「アートのなぞなぞ―高橋コレクション展」出展作家・西尾康之氏をお招きし、西尾さんが作品制作の際に用いる「陰刻鋳造」(いんこくちゅうぞう)という技法で、石膏の立体作品やレリーフ(半立体作品)の制作に挑戦しました。「陰刻」だからこその「妖怪作り」の様子を、参加者の皆さんの作品とともにご紹介します。
「陰刻鋳造」という言葉は、大人でも聞きなれない方が多いのではないでしょうか。『アートのなぞなぞ-高橋コレクション展』図録には、次のように解説されています。「陰刻鋳造とは、粘土を指で押しつけ鋳型を作り、そこに石膏を流し込み、型を抜き取る手法である。」文章だけでは想像しにくいかもしれませんが、「たい焼きの型」と「出来上がったたい焼き」にあたる部分を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。陰刻鋳造では、自らの指や道具などで直接型となる部分を刻み、そこに、石膏などを流し込み固めて取り出したものが作品となります。私たち実技室スタッフも初体験の技法だったため、ワークショップ開始前に西尾さんからレクチャーを受けました。
上の写真は、講師の西尾さん(写真右)と助手の松尾さん(写真左)が、レクチャー用の試作を作っているところです。今回のワークショップでは、信楽粘土を型の素材として用い、陰刻を施しました。
型に石膏を流し込んで取り出した時のかたちを想像しつつ、指で粘土に陰刻を施していきます。凹にしたところは凸になる…などと考えるとかなり頭が混乱するのですが、流石は西尾さん、この技法を使いはじめて25年近くなるそうで、すっすっと軽く粘土を撫でたかと思うと、あっという間に型が出来上がりました。
試作の陰刻(右:西尾さん、左:松尾さん)を終え、周囲にぐるっと粘土の土手を作り、石膏を流し入れる準備が整いました。
細かい部分にもしっかり石膏が行き渡るように、オイラーを使って石膏を注ぎ込んでいきます。なんだかお菓子づくりのようで、わくわくしてしまいます。
石膏が固まるまで待つこと20数分…西尾さんの試作が出来上がりました。かっこいい!陰刻とは思えない素敵な出来映えです。このような工程で、参加者の皆さんにも陰刻鋳造にチャレンジしていただくのですが、西尾さんの試作のように思い通りのかたちが出来ることはなかなかなく…、どんなにがんばっても意図とは違った不思議な、妖怪のような作品が誕生するという、一回性のそれがこの技法の特徴であり、醍醐味でもあります。
開館とともに30名近い参加者の方々がお見えになり、いつになく賑やかな実技室となりました。小学1年生~70代の方まで、色々な世代の方々がテーブルに向き合って作業をする様子が、良い雰囲気でした。上の写真は午前(10:00~12:00)の2時間でレリーフ(半立体)作品を仕上げる、半日コース・午前組の方たちです。型となる粘土を、1人当たり2kg用意しました。
こちらは、1日通しコース(10:00~16:00)本気組の皆さんです。本気組は、粘土を1人当たり10kg用意しました。最終的には立体作品になることを目指して、午前と午後に分けて半立体(表側と裏側)を制作します。
午前組の参加者の中には、お子さんの手形をそのまま粘土に刻んでいる作品が見られました。作る人の指や爪の痕、細かな皺まで写し取ることができるのも、この技法の大きな特徴です。
出来上がった粘土の型に西尾さんが石膏を注いでいきます。お菓子作りのようなこの工程は、きっと子どもたちも大好きな作業なのですが、石膏が硬化する前に素早く丁寧に行わなければならないので、講師やスタッフが行いました。固まるまで、ちょっとがまん。
上の写真は、粘土の型から石膏を取り出した状態です。この後、指の間などの細かい部分に詰まっている粘土や、石膏のバリを取り除きます。さらにもうひと手間かけて、余った粘土を水で溶き、筆で石膏の凹んだところ(影になる部分)に仕上げのシャドウを施して完成です。
一日通しの本気組は午前に片面(表面)を作り終え、午後からは裏面を制作します。上の写真は、午前に出来上がった表面を、午後に型取りする粘土と合わせているところです。同じ大きさで後ろ身が作れるよう調整しています。
裏面の陰刻も終えたら、石膏を注入します。土手のふちぎりぎりまで注がずにおいて、石膏をつけたサイザル麻で埋めていきます。
そして、立体のうさぎさん完成!!作品も笑顔も素敵です。このうさぎさんはなんと、現在、ご自宅のうさぎゲージに入っているそうです。
本気組の中には、大人の参加者の方もたくさんお見えになりました。上の写真の方は、アンモナイトのような大きなレリーフを作っていました。これが土に埋まっていたら、きっと本物だと思ってしまうような完成度でした。
それでは、半日コース・午後組の作品も少しご紹介します。こちらは、もともとが妖怪の「目玉のおやじ」を陰刻鋳造しました。本物より妖怪らしい雰囲気に仕上がっているように思います。
つづいてこちらは、ムンク『叫び』を思い描いて作ったそうです。作者は小学生の女の子でしたが、モチーフの選択が秀逸です。
シンプルに見える猫さんの顔ですが、ちゃんと目や鼻が出っ張っていて、耳の内側はへこんでいます。陰刻とは思えないほど丁寧に作られていますね。
1日コース・本気組は、大きな立体作品が出来上がりました。上の作品はナマズだそうです~。口やヒレがなんともいえず可愛いです。
大人が作った亀の作品です。私個人的には、いちばん妖怪っぽいオーラを感じました・・・。
こちらも大人の作品です。レリーフで2体の魚を作成されました。深い海の底にはこんな魚がいるんじゃないかと思わせる、とても雰囲気のある作品です。写真で全てをお見せできないのが残念ですが、陰刻が生み出す力強い文様が、参加者の皆さんの作品にしっかりと刻まれていて、なにやらすごいエネルギーを湛えた妖怪がたくさん誕生しました。
今回のプログラムに参加された方から、「展示中のアーティストが講師だったので、このワークショップにとても興味があった。制作過程を知ることができ、より一層、作品の魅力が増しました」という声をいただきました。西尾さんの作品を見て、同じ技法で自分でも作ってみて、さらにまたもう一度、西尾さんの作品の前に立って…いつもの何倍も、作品を感じることができたのではないでしょうか!
★★★お知らせ★★★
『アートのなぞなぞ-高橋コレクション展』は、2月28日をもって会期終了となりました。本展覧会の終了と同時に、静岡県立美術館・本館は6月末まで長期工事休館に入ります(本館休館中もロダン館は開館します)。4月~6月の間、実技室関連の一般来館者向けプログラムは、「ロダン館デッサン会」と「ロダン彫刻でデッサンの基礎を学ぶ」のみの開催となります。応募の詳細はホームページ(イベント一覧)からご確認ください。
2018年02月27日(火) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。
2月11日に、今年度(平成29年度)最後のねんど開放日を実施しました。
厳しい寒さに関わらず、今回もたくさんの方々に参加いただき、ありがとうございました。
全体的に大きな作品が登場し、各回1トン近いねんどを使用しました。
どのような作品ができあがったか、当日の様子をご紹介した後に、皆さんに1つお知らせがあります。
こちらは首の長い、あの動物。家族みんなで協力して制作されていました。
何人かで協力し合えば、背丈ほどの大きな作品や、乗れちゃう作品も作れますね。
この日はゾウさんがあちらこちらで登場しました。
ゾウはゾウでも、それぞれ工夫が凝らされています。
他にもいろいろな動物や乗り物が並びました。
美術館のスタッフも一緒に作りました。
こちらはクワガタの戦いです。
?他には、あざらしやイッカク(鯨類だそうです)などが登場しました。
?冒頭でお伝えした通り、今回が平成29年度の最後のねんど開放日となりましたが、
さらにもう一つ、今回で最後を迎えました。
ねんど開放日に参加経験のある方は、きっとこのゾウに見覚えがあるのではないでしょうか?
毎回、いつの間にか登場しているこのゾウ。
大人でも乗れちゃうので、ちょっとした記念撮影スポットにもなります。
(ボランティア歴20年の朝倉さん)
このゾウを作っているのが、ねんど開放日のインストラクターで美術作家の、内海健夫さんです。
内海さんは静岡を拠点として活動されている作家さんです。
ねんど開放日では、最初に道具の使い方とお約束をインストラクターから説明していきます。こちらは切り糸という道具を使って、さまざまな形を切りだしている様子。あっという間にキレイなハートのできあがり!毎回歓声の上がる場面です。
内海さんと、粘土開放日に一緒に遊んだ思い出のある方もきっといると思いますが、内海さんは参加者と一緒に遊びつつ、驚異的な速さでゾウを作ってくれます。
毎回登場するゾウを楽しみしているとアンケートに書いてくださった方もこれまでにたくさんいらっしゃいましたが…実は、今回が内海さんのインストラクター最終回になりました。
以下、内海さんより皆さんにメッセージです。
ねんど開放日、進行役の内海です。
10年間この進行役を行ってきましたが、今日が最後となります。
今日が初めてのご家族のみなさん、そして毎回遊びに来てくれた家族のみなさん、
いままで本当にありがとうございました。
内海さんのゾウを見れなくなるのは寂しいな…と思いながら、昔の当館のブログ記事を読み返していたら、こんな記事がでてきました。
こちらから、ゾウの作り方をご覧いただけます。
この作り方をマスターすれば、他の動物もきっと作れます。
皆さんもぜひチャレンジしてみてくださいね。
内海さん、長い間ありがとうございました!
またどこかで作品を拝見するのを楽しみにしています。
次回のねんど開放日は、本館休館明けの7月頃を予定しています。
スタッフ一同、皆さんのご参加をお待ちしています!