2018年01月23日(火) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。
12月23日・24日の2日間にわたって「X’マスだよ!パープルーム予備校の体験入学会」が開催されました。
今回のワークショップでは、現在開催中の企画展「アートのなぞなぞ―高橋コレクション展」の関連イベントとして、出展作家の梅津庸一さんを講師に、同氏が創設したパープルーム予備校の生徒、あんどーさん、智輝さんを助手にお招きしました。広報の時点から、お問合せをいただくことが多かったのですが、チラシには梅津さんによるワークショップの概要として、このような文章を掲載しました。
「絵画、お絵描き、スケッチ、ドローイング、落書き、、、『絵を描く』と言ってもいろいろな水準で区切られているのが現状です。果たして、わたしたちが生み出す「絵」とはいったいなにを指すのでしょうか。そして「絵」とは画材で描かれたものだけなのでしょうか?実際にいろいろな絵を描きながらその辺のことについて考えてみませんか?さあ、あなたもパープルーム予備校生になって一緒に絵を描きましょう!(梅津庸一)」
そもそも「予備校」とは?ですが、これは美術大学進学を目指して受験生が通う、美術予備校を指しています。一般的に美術大学の入試には、学科試験だけでなく実技試験もあります。美術予備校は、主にこの実技試験対策をサポートしてくれる学校です。しかし、「パープルーム予備校」は、美術系の私塾としていながらも、美大進学を目標としていません。アーティストを目指す者が集まる共同体として、美術運動を兼ねた活動をしています。今回のワークショップは、パープルーム予備校生として1日体験入学をし、一緒に絵を描くものでした。
参加者は、普段から作品制作をしている方や、美術系の学校を卒業されている方、美術系に進学を考えている学生など、美術に普段から親しみのある方々が多かったようです。今回はほとんどの参加者が「パープルーム」を予習していない状態で参加されていたようでしたが、終了後にしばらく経ってからも参加者の方々に感想をいただくほど、皆さんにとって刺激になったようです。スタッフも、今日まで余韻が残っています。一体どのような内容になったのでしょうか?2日間の様子を合わせてご覧いただきたいと思います。
会場内はポスターやフラッグなど、梅津さんと予備校生による飾り付けがされています。クリスマスということで、会場の中央にはツリーを設置して、音楽(梅津さんのお好きなSHAZNA)も流して、賑やかな雰囲気になりました。
冒頭では、梅津さんの美術館のワークショップや美術教育への思いや疑問についてのお話から始まりました。「今日のワークショップでは、絵を描く難しさを共有できれば、このワークショップは成功したことになる」とのお言葉に、この時点では「絵を描く難しさとは一体…?」とはっきりと浮かびませんが、皆で同じものを作るようなワークショップにはならない、ということが伝わってきます。そして、パープルーム予備校に至る経緯、現代における絵画の位置付けのお話しがあり、絵を描く準備にとりかかりました。
画材もテーマも指定はありません。「さて、一体何を描いたら良いのだろうか…」と戸惑いながら、とりあえず、筆を走らせます。
こちらは、予備校生のあんどーさんです。予備校生の方々も、参加者と一緒に絵を描きます。2日目には、もう一人予備校生のちはるさんが加わりました。
最初は戸惑いながら描き出しましたが、制作は想像以上に早く進みました。ここで梅津さんより、「ただ手を動かして描くのでは図工になってしまうので、知性を使って描きましょう」と声がかかり、参加者に「これは単なる絵を描くワークショップではないのだ…」という認識が広がります。続けて、梅津さんの「自己模倣に陥らないために、他の参加者の作品を見てはどうか?」との提案に、他の人がどのような作品を作っているか見てまわりながら、参加者同士で今の気持ちを共有しているようでした。
梅津さんは、時々室内を巡回して、参加者に助言していきます。通じる箇所がある作品や作家を挙げたりするシーンも多々ありました。無意識に影響を受けていたり、偶然似通った場合にしても、自分と似た方向性を持っている人を知ることは、進め方の参考になります。しばしば厳しいコメントもされますが、ここは「体験入学」、愛の鞭です。会場内の緊張感が時間を追うごとに増し、「絵を描く難しさ」を実感していきます。
助手として参加をしているパープルーム予備校生にも、同じように助言していきます。時には画集を手に、こうしてみたらと具体的なアドバイスをされていて、手厚い指導を個人的に羨ましく思いました。
途中で鑑賞教育の研究をされている参加者の方と、美術作品の鑑賞方法について議論が交わされるシーンもありました。
お昼をはさみ、苦戦しながら制作をつづけ、どうにか形が見えてきたところで、15時頃より、ツアー形式で作品の鑑賞会を行いました。基本的に、作品について作者が説明したあとで、梅津さんを中心にパープルームの方々がコメントしていくというスタイルですが、時折参加者やスタッフまでも巻き込んで会が進行しました。
出来上がった作品は、普段から描いている絵の続きや、「アートのなぞなぞ展」から着想したもの、画材の実験、日常生活を切り取ったものなど、各々違った方法で進められていました。普段から制作されている方は、いつもと違った趣向になったようです。
写真で見ると、和やかな雰囲気ですが、梅津さんが率直に作品の問題点を追及していき、会場内の緊張感はクライマックスを迎えました。単に絵を描くだけでは、絵が成立しないということを改めて実感します。ただ、参加者の方々に後日お話をうかがったところ、この時に梅津さんに率直に意見を言っていただけて、スッキリした方が多かったようです。1日目は特に参加人数が多かったため、2時間近い鑑賞会となりました。(個々の作品の講評の詳細はパープルームのTogetterまとめをご覧ください。)
続いて、予備校生あんどーさん作のパープルームの日常を描いたアニメーションを鑑賞しました。
最後に、梅津さんが「このワークショップに来て良かったと思っている人はいないと思う」と仰っていました。実は数名の参加者が、途中で帰宅されました。(憤ったご様子ではなく、どちらかというと困惑されたようでした)今回のワークショップでは、きっと全員が作品を生む難しさや、苦しさに直面したはずです。さらに、今まで信じていたことが揺さぶられたり、見ないようにしていた事に直面したりするようなショックを受けたと推察します。
参加者の方々は、どのように受け取ったのでしょうか?終了直後のアンケートのコメントを掲載します。(原文ママ)
・美術作品の見方は、むずかしい。と改めて感じました。自己満足でなく、客観的に見てみないとダメですね。
・苦しい時間をありがとうございました。
・分かりやすい部分もありつつ、全くつかめない所もありました。ストレスがたまったけど、決して悪いストレスだけではなかった気がします。
・ぶつかり合いは必要だし勉強しなければならないと警鐘を鳴らされたように感じました。
・難しい内容だった。画力の無い自分にとって「何でも良い!」これが一番つらい事でした。それでも楽しませていただきました。
・結構疲れました。絵を描きにきただけだったのにーという感じの不意打ちをくらった感じです。とても刺激的でした。
・賢くなりたいなあと思いました!梅津さんがニコニコといろんな人につっ込んでいくところが面白かったです。
・いつもの自分の作品作りの姿勢について考え直すきっかけとなるようなお話をいただき、とても刺激になりました。ありがとうございました。
・現役の作家さんから美術や制作への考え方を直接聞くことができる、とてもぜいたくな予備校だと思いました。今日のことを自分なりに解釈し、今後の研究に生かしていこうと決意を改めた次第です。大変刺激になりました。ありがとうございました。
・たくさん話が伺えて楽しかったです。現代アートには興味あるけど、言語化できる作家が少ないので、具体的なことばにうれしい思い出が出来ました。感謝です。
・さすがでした。すべて肯定とは言えませんでしたが、論理的でした。
・割と自分勝手な判断の行動があり申し訳ありませんでした。プロアーティストとしてもっと質の完成度共に、高めていきたいです。今日は自分が何を視点として制作すべきか、少しだけ確認できました。
後日、「純粋にアートについて考えられる良い時間だった」「芸術家になる難しさを感じた」という感想を寄せてくださる方もいらっしゃいました。今回参加していただいたことで、自分にとっての「絵を描くこと」「美術」または「作家」について、深く考える機会になったのではないでしょうか。参加者の方々の目的は多様ですが、今回の内容と参加者の方々の反応を受けて、スタッフも今後のプログラムについて、改めて考える機会となりました。
2017年12月17日(日) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。
12月9日(土)と10日(日)に創作週間スペシャル「木版画でポストカードをつくろう!」が開催されました。
皆さんは木版画というと、どんな絵を思い浮かべますか?多くの方々は、小学校で経験したような白黒でざっくりとした印象の作品や、浮世絵を思い浮かべるのではないでしょうか。現代の木版画は、技法と表現が多様化しており、一見すると銅版画のように見える作品すらあります。今回の講座でも、それぞれの方向性に合わせて先生に助言を頂きながら、思い思いの作品が出来上がりました。作品と共に、当日の様子を見てみましょう。
【1日目】
今回の先生は、当館実技室のインストラクターを務めていただいている、木版画家の藤田泉先生です。
まずは、木版画についてのお話です。伝統的な木版画から創作版画、そして現代版画について、代表的な作品を挙げながらお話いただきました。そのあとに、事前に持ってきていただくことになっていた下絵を確認し、色合いや形などを決定します。版木は1人2枚お配りし、裏表使えるので、4版作ることができます。基本的に、色ごとに版木を変えるため、下絵の時点で色数を決定することが重要です。
次に、版木に下絵を転写します。その前に、まずはトレーシングペーパーに書き写します。
判子と同じ理由で絵柄が鏡文字になるので、トレーシングペーパーに描いた面を裏返して、版木に転写していきます。
こちらの版が、版木に転写した後です。見づらいですが、このように鏡文字になります。(MERRY CHRISTMASと書いてあります)
次は、いよいよ彫刻刀で彫ります。軽やかに彫り進める先生を見ていると、簡単に彫れそうに思えてしまいますが、刃の角度や力のかけ具合を自分で意識的に調節しないと、なかなか思い通りになりません。参加者の皆さんには、基本4種類の彫刻刀をお使いいただきましたが、各彫刻刀の特長を2日間で完全に習得するのは困難です。とにかく、絵柄通りに彫れるように、施行錯誤しながら彫りを進めました。先生の作品と版をお持ちいただいたので、指で触って、彫り具合などを参考にさせていただきました。
細かい絵柄を彫っている時に、注意を払っていても刃が滑って、欠けさせてしまうことがあります。一度彫ったら元に戻せないので、ショックを受けます…が、なんと、修復することができます!大変細かい作業になりますが、このやり方を覚えておくと、万が一の時に安心です。
1日目は各自黙々と彫り進めて、あっという間に終了しました。彫り終わるか心配な方はお持ち帰りして、家で進めていただきました。
【2日目】
摺りの工程です。単に摺るだけ…と思われがちですが、かつて、「彫師」と「摺師」が分業していたほど、彫りと共に奥が深い工程です。今回は最終的にはがきに摺るのですが、まずは試摺として、画用紙に摺っていただきました。
この画像のように、摺る際には様々な種類の道具を使用します。「ばれん」は使用された経験がある方もいらっしゃると思いますが、「はこび」など見慣れない道具も登場しました。先生にそれぞれの道具の説明をしながら、実演していただきました。まず、水で溶いたヤマト糊(でんぷん糊)を「はこび」を使って、版木にのせます。つぎに、絵の具をはこびで取り、刷毛にのせます。その刷毛を、色をつけたい部分にすりこみます。
そして「ばれん」で摺ります。
すると、このように摺り上がります。
この工程を、版の枚数分繰り返して行います。下絵通りに形が出て、参加者の方々も笑顔になった場面でした。試し摺りなので、表したい部分がちゃんと出ているか確認したり、ばれんのつかい方(摺り方)を練習したりします。思い通りに摺るのは難しいのですが、摺り方を少し変えただけで、作品の表情が変化するところが、版画の醍醐味とも言えます。ある程度試し摺りしたら、本番の紙を使って摺ります。こうして、午後の時間を摺りの作業に費やしました。
さて、こちらは試し摺りの段階でしたが、こんなに素敵な作品が出来上がりました!
年賀状やクリスマスカードはもちろん、季節問わず使えるポストカードをつくった方もいらっしゃいました。年賀状は、直接はがきに摺るだけでなく、パソコンに取り込んで、プリンターで出力する方法もあります。パソコンで編集すると、年賀状だけでなく、オリジナルのカレンダーなどへの展開を楽しむことができます。プリンターで出力しても、作品の線や面には、機械で表現できない独特な温かみがあります。
今回の講座では、専門的な道具をお使いいただきましたが、家でも引き続き摺っていただけるように、各道具の代替品として、ご家庭の日用品を使った場合もご紹介しました。みなさん、既に版は仕上がっていますので、これからご自身で制作活動をお楽しみいただければ嬉しく思います。もちろん実技室(アトリエ)を開放している創作週間でも、制作を続けていただけます。
「創作週間」では、静岡県立美術館の実技室(アトリエ)を開放しています。
実技室にある道具を使用し、先生にアドバイスをいただきながら作品制作ができます。初心者の方は、木版画インストラクターの藤田先生の在室日にお越しください。インストラクター在室日については、こちらからご覧いただけます。創作週間中は、随時見学していただけます。興味はあるけどちょっと…という方、まずは一度お気軽に越しください。
2017年12月07日(木) 作れちゃう
11月19日に、「めぐるりアート静岡」関連ワークショップ、わくわくアトリエ「発泡スチロールで生き物の彫刻を作ろう!」が開催されました。
講師には、「めぐるりアート静岡」で当館の展示を担当された、彫刻家の池島康輔さんをお招きしました。皆さんは「めぐるりアート静岡」をご存知でしょうか?このプロジェクトは、静岡市内のさまざまな場所(静岡県立美術館、東静岡駅前のアート&スポーツ/ヒロバ、静岡市美術館、中勘助文学記念館、村上開明堂七間町第2ビル)を会場に、今を生きるアートを紹介する展覧会です。静岡大学を中心に4年前から始まり、5回目となる今年のテーマは、「まち ひと とき むすぶ」でした。既に会期は終了していますが、ここで少し池島さんの作品をご紹介いたします。
写真の作品は、当館企画展会場へと向かう階段の踊り場に展示されました。「めぐるりアート静岡」のパンフレットにも掲載されていたので、目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。この他にも、エントランス、名品コーナー、ロダン館のそれぞれに作品が展示され、来館された多くのお客様が、繊細で緻密な彫刻に、思わず足をとめて見入っていました。
池島さんの作品には、一本の木材から像を彫り出す「一木造り」という技法が用いられていますが、今回のワークショップは小学生からの参加ということもあり、加工しやすい発泡スチロールを使用し、いくつかの部材をパーツごとに加工して組み上げる「寄木造り」という技法を用いて行われました。
それでは当日の様子をご紹介いたします。ワークショップ開始!子どもから大人まで、彫刻作業がしやすいように、床席と机席を選択できるかたちで会場をセッティングしました。実技室の中央には今日の材料となる、たくさんの発泡スチロールが置かれています。
はじめに、池島さんから作品についてお話を伺いました。当日は「めぐるりアート」終了後だったこともあり、展示風景とともに1点ずつ解説をしてくださいました。≪死肉貪獣≫(ハイエナ)が登場すると、動物博士のような子が、池島さんと一緒になって、色々な知識を披露してくれました。お話の後に質問時間を設けたところ、大人の方からも彫刻技法に関する質問が相次ぎました。
つづいて、作業工程の説明がありました。モニターに写っているのは、池島さんがワークショップのために用意してくださった、発泡スチロールのアヒルさんです。スタッフもワークショップ前日までに試作をしましたが、池島さんのアヒルは各段にハイレベルでした…。
こんなに可愛らしいイラスト付工程表も用意してくださいました。
さらに、各工程ごとのアヒルの試作まで…!発泡スチロールにアヒルを型取り(左)、同じ型を数枚重ねて胴体部分の厚みを出します(右)。それを削り出して、理想のアヒル像に近づけていきます。
上記のような工程、削って形づくることを「彫刻」(カービング)といい、粘土などで肉付けしながら形づくることを「彫塑」(モデリング)と呼びます。今回のワークショップでは、最初に作りたい生き物をスケッチした後、水粘土でモデリングをして、それを見本に発泡スチロールで彫刻をします。
各自、制作がはじまりました。池島さんのお話をふまえて、図鑑や資料を見ながら、何を作ろうかと案をめぐらせます。
作るものが決まった人からスケッチを開始。この後の作業がしやすいよう、図鑑のイラストなどを参考に、生き物の「かたち」を極力シンプルな線でとらえるよう心がけました。
つぎに、スケッチ(平面図)をもとに立体を起こします。子どもたちは、この工程に苦戦しているようでした。たしかに、平面図を見てその向こうにある「かたち」を想像するのは大人でも難しい…。
でも、粘土を使って手を動かしているうちに、なんとなく「かたち」が見えてきました。
粘土のかたちが出来上がったところで、そこから型紙を作ります。彫刻のベースとなるかたちなので、生き物全体をとらえることが出来る視点を探して切り取ります。
スチロールカッターで型どおりに切り抜きます。1枚切り出したらもう1枚…胴体の厚みを出すために、同じ型が数枚必要になります。
基本となる型以外に、手足のパーツなども切り出します。全て揃った時点で、スチのりとマスキングテープを使って接着します。
いよいよ彫刻のスタート!スチロールナイフを小刀のように使い、かたちを削り出していきます。最初はざくざくと大きなかたちをとらえて彫りすすめます。
大まかなかたちが出来たところで、ナイフをサンドペーパーに持ち替え、理想のかたちになるよう、やすって仕上げていきます。
上の写真の方は、丸まった猫を作ろうとしています。顔の凹凸などの、繊細で難しい部分について、池島さんからアドバイスを受けています。彫刻は、納得いくかたちになるまでひたすら彫り続けるという根気のいる作業です、いつの間にか付添の親御さんが大活躍している場面も見られましたが…
色塗りがはじまると、子どもたちの目が輝きました。上の写真の生き物はなんだか分かりますか…?いま、子どもたちの間で人気の「メンダコ」です。図鑑を見せてもらいましたが、形といい、色といい、本当にそっくりです!
こちらは、自宅で飼っているというインコと、インコが大好物のミカンをセットで制作中。
上の彼は、スタッフの間で、キョロちゃんを作っているのでは…と話題になっていましたが、違いました。立派なくちばしとカラフルな色味が、とても南国の鳥らしくて素敵です。
動物博士の彼は、ウミガメを作っていました。お母さんと一緒に長い時間かけて頑張った、甲羅のカービングが秀逸でした。
こちらは可愛らしいリスさんです。よく見ると手に何か持っていますね…?後ほど、完成作品をご覧ください。
なんとも愛らしいシルエットの「オオサンショウウオ」も完成しました。四角い発泡スチロールをここまで丸く滑らかにするのはとても大変だったと思います。
子どもたちの制作がひと段落したところで、発表会の時間を設けました。大人の方たちは、色塗りよりも、最後まで彫りの完成度を追及されている方が多かったため白い作品が目立ちますが、どなたも、とても丁寧にカービングされていました。写真でお伝えしきれないのが残念です。
こちらは先にも登場したリスさんです。木の実を持っていたんですね。なんだか今にも動き出しそうな存在感です。前足と木の実の繊細な彫刻がとても上手に出来ていると、池島さんからコメントをいただきました。おひとりずつ、全員の作品についてお話を伺いましたが、皆さんそれぞれにこだわった点が異なり、その点がきちんと作品に反映されていました。
最後に、参加者の皆さんと作品とともに撮影しました。1日のワークショップとしては工程が盛りだくさんで、難しい内容もあったのですが、想像以上に見ごたえのある作品に仕上がりました。子どもたちにとっては、平面から立体作品を創造する、それも彫刻で削り出すという、プラスではなくマイナスの作業は、はじめて体験するものづくりの方法で、ものの見方が変わる、広がる貴重な経験になったのではないかと思います。皆さんの「こういう作品を作りたい」という気持ちを丁寧にくみ取り、お一人ずつアドバイスをしてくださった池島さん、素敵なワークショップを本当にありがとうございました!
2017年11月14日(火) 作れちゃう
実技室プログラムのお知らせです。10月28日と29日実技講座の日本画編、「巻物に描く秋の庭園画」を実施しました。今回の講座は、開催中の企画展「美しき庭園画の世界」の関連講座です。企画展には、さまざまな庭園画や関連作品が出品されていますが、今回は主にスケッチや、実景に基づいた作品から学び、静岡県立美術館の周辺をスケッチや写真撮影したものを基にして一つの絵巻をつくりました。
講師には日本画家の森谷明子さんをお招きしました。森谷さんは、静岡を拠点に、絵画作品から文筆活動まで幅広く活動されています。
2日間の実施ですが、2日目の午後に台風に見舞われ、惜しくも予定を繰り上げて早めの解散となりました。今回完成に至らなかった作品は、引き続き11月の創作週間(アトリエを開放する日)でも制作していただけます。それでは、2日間の様子をご覧ください。
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【1日目】
企画展では、絵巻物が多く出品されており、講座でも巻物の形式で作品を作ります。講座の冒頭では、この巻物についての今回の企画展を担当した野田麻美学芸員のレクチャーから始まりました。巻物の扱い方を実際にご覧いただき、実際に画面が移り変わる様子を知っていただきました。巻物は紐を解いて、自分の肩幅くらいに広げます。そして右からを左に巻き取っていきます。
すると右から左へ、場面が変化していきます。簡単な仕組みですが、このように画面が移り変わることや、それに伴って物語が展開していく形式には、動画や映像に慣れた私たちにとっては新鮮な楽しさがありました。
その後、展示室へ移動し、野田学芸員の解説を聞きながら企画展を観覧しました。「庭園画」と言っても、画家が見た景色をそのまま描くものや、有名な名所など特定の場所に重ね合わせて描いたものなど、いくつも種類があります。今回の講座では、谷文晁の実景に基づいた庭園画を主に参考にして制作をすることにしました。谷文晁の作品では、臨場感を出すために陰影法、透視遠近法を用いたり、モチーフを強調したりと様々な工夫が見られました。
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展示室での鑑賞を終えたあと、さっそく外にスケッチと写真撮影に出かけました。台風の影響でこの日の降水確率は高かったものの、幸運にも雨が降らない時間帯に出かけることができました。美術館の周辺は、晴れていると、ピクニックをしている人、ウォーキングしている人がいたり、隣接する静岡県立大学の学生が部活の練習をしていたりして賑わいます。お昼をとりながら、散歩しつつ、スケッチや撮影をしました。美術館のまわりには、四季を通して見ごろを迎える様々な種類の木や植物があり、中には紅葉し始めたものもありました。
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何度も通っている道ですが、改めて見たら立派な木が立っていました。気になるものをスケッチしたり、写真撮影しました。
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実技室へ戻り、制作に入る前に水墨と筆の使い方の練習をしました。 1本の筆と、1種類の墨を使うだけでも、筆致や墨の濃淡によって幅広い表現ができます。筆を動かす速さ、筆圧が大きく関わりますが、ペンや鉛筆など硬筆に慣れている私たちにとってその感覚が難しく感じられます。それに加えて、失敗できないというプレッシャーで緊張してしまいます。
今回は景色に木が多いので、小枝や葉の表し方や、必要な人は竹の表現の仕方を練習しました。木の葉を一つずつ描くと、膨大な時間がかかります。そこで、企画展に出展されている谷文晁のスケッチなどの作品を、木がどのように簡略されているか参照して練習していきます。スケッチを見ると、線だけでなく、面や点でも表されています。さらによく見てみると、木の種類によっても、葉の流れや形が違います。これは縦っぽい、横っぽいな、など印象を大切にしながら、どのようなタッチを使えば的確に表現できるか試行錯誤しました。
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【2日目】
いよいよ本番です。今回描いた紙の長さは、なんと約170センチ!人の身丈ほどの長さに挑戦しました。今回は、基本的には連続する画面を描くというよりは、3~4場面を描くことにしました。順番は、時系列になっていたり、起承転結になっていたりと、場面の移り変わりを楽しめるようにしたものが多くみられました。 中には人物が出てくる作品もありました。
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出展作品からヒントを得て遠景と近景を組み合わせた作品もあり、日本平の眺望の良さと緑豊かな美術館周辺の特色が作品にも反映されているようでした。作品の中には、 美術館の建物を入れてくださった作品も数点あり、現代の建築物も墨で描かれると印象が違って見えて面白く感じられました。午後には台風が東海地方に接近したため、残念ですが予定を繰り上げて解散となりました。引き続き完成に向けて制作していただき、巻物として巻きながらご自身の作品を鑑賞して楽しんでいただけたら幸いです。
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2017年09月11日(月) 作れちゃう
9月9日、10日の2日間にわたり、「戦国!井伊直虎から直政へ」展関連・切り絵ワークショップ「直虎大喜利」が開催されました。
講師には、静岡県出身で国内外でご活躍されている、切り絵アーティストの福井利佐さんをお招きしました。福井さんには毎年ユニークなワークショップを考案いただき大好評を得ていますが、今回のワークショップは、2日間じっくりと時間をかけて制作に取り組む、大人向けのワークショップを実施しました。
下の写真は、福井さんが講座のために作った試作品で説明をしているところです。これから展覧会を鑑賞した後に、直虎をとりまく世界や人々について想像をふくらませ、「なおとら」の四文字であいうえお作文を作ります。文章が思いついたら、それに合ったイラストを考案して切り絵で仕上げます。ちょうど、いろはカルタの「読み札」と「絵札」を切り絵で作るといった感じです。
早速、鑑賞に出発!本展覧会を担当している石上学芸員から、フロアレクチャーを受けました。意外にも、今回ご参加下さった方たちの半数以上は大河ドラマをご覧になっていませんでした…。数行の言葉で直虎を表現するためには、よくよく解説を聞いて、資料を見て、直虎のイメージを構想しなければなりません。
午前中に鑑賞時間をたっぷり取り、午後からは作品構想と切り絵の制作にかかりました。最新のマシ―ン、書画カメラで福井さんの手元を拡大!切り絵をはじめる前に、デザインカッターの使い方や、切り進め方のレクチャーを受けました。
つぎに、展覧会鑑賞を経て、皆さんが個々にイメージした言葉を出し合い、共有しました。福井さんも色々な言葉を考えてきてくださり、あっと言う間にホワイトボードがいっぱいにまりました。
「お」からはじまる言葉は、こんなイメージになりました。ひとりで全てを考えるのは大変ですが、皆さんのイメージから、何か良いヒントやアイデアが得られそうですね。
さらなるイメージを広げるために、辞典や図鑑といった色々な資料も用意しました。
読み札の文章が決まった人から、文字の下書きに入りました。直虎を想わせる素敵な言葉の数々に胸を打たれました。
文章が決まると、皆さんすらすらと絵を描きはじめました。短い文章の内に情景を思い浮かべることができるのは、日本人ならではなのでしょうか。最終的には切り絵で仕上げるので、線を整理しながら下絵を描いていきます。
今回は、色々な種類の紙を用意しました。ラシャ紙、千代紙、色画用紙…。カラフルで、見ているだけでも楽しくなります。出来上がりの色も考えつつ…1日目は、下絵づくりまでで終了しました。
2日目は、ひたすら切り絵に集中!細かい線を切り落とさないよう、線と線を繋げて切っていくのが難しいのですが、それも切り絵の表現の特徴のひとつです。下の写真は、展示室でいちばんの存在感を放つ、井伊家当主を象徴する兜をモチーフに制作した作品です。線と面でとても上手に構成されています。
彼岸花をモチーフに制作されている方もいました。繊細な技術が必要になりそうです…。福井さんが丁寧にアドバイスをされていました。
花弁をあえてシルエットにし、内側に赤系の千代紙を施してあります。外側の赤い枠も相まって、とても彼岸花らしい雰囲気がでています。
朝の10時から制作を開始し、お昼をはさんで数時間…、いよいよ作品発表の時間となりました。「直虎大喜利」ということで、おひとりずつ文章を読み上げ、福井さんが「そのこころは…!」と意図を尋ねるかたちで進められました。
「な」…なからいの
「お」…おのたじまをかくれみのに
「と」…とくせいれいをのりこえ
「ら」…らいせにつなぐ
「なからい」とは、親しき間柄を表すこ言葉だそうです。きっと大河ドラマを見ている方に違いありません…鶴や囲碁のモチーフが…泣かせます。
「な」なみだする
「お」幼なじみ失い
「と」トラになった
「ら」らんせの女
虎になった女という表現が、当主として振舞わなければならなかった運命の、いかにも直虎らしいひびきです。座布団1枚!
言葉と切り絵の両方を用いて表現するという機会は、めったにない体験だったことと思います。右脳と左脳をフル回転でワークショップに挑戦していただきました。いつもより少しハードルが高めの内容ではあったのですが、実は、こういうワークショップほど得られる気づきが大きかったりします。私たちスタッフも、参加者の皆さんが描かれた、直虎を象徴する様々なモチーフに驚かされました。ドラマの中に登場する直虎だけでなく、そのひとそれぞれの人物像が見えたのではないかと思います。参加者の皆さま、大作への挑戦おつかれさまでした。福井さん、心に沁みる素敵なワークショップをありがとうございました。